古民家再生、古民家物件、リノベーション情報など。

株式会社真輝建備

古材倉庫 君津店代表 腰越予志裕

対応エリア全国

古材倉庫 君津店の対応エリア関東全域

古材を伝えるという使命。

古民家アイコン

一本の古材からオリンピック選手村や万博、村上春樹記念館まで、幅広い建設に携わる東京の真輝建備代表の腰越さんは、日本の材木屋として古材の流通促進に取り組んでいます。材木のこと、古材のこと、建築業界のこと。有名建築家K氏とのお仕事の話や海外の展示会など、誰も知らないようなお話もたっぷりと伺いました。

インタビュー

特殊案件を請け負う

──
お仕事終わりにホテルまで押しかけてすみません。今日はお仕事で来阪されてるんですよね。
腰越
はい。今回は有名設計事務所の木工事をすることになったんですが、なぜ声がかかったかというと、オリンピックの選手村をやってるんですよ。その時は6,000㎡の木造の平屋を建てました。
──
ちょっと待ってください、いきなり話がすごいっす…(笑)
腰越
その施設は構造以外、木造についてはすべてうちが担当させて頂きました。
──
え、ちょ、6,000㎡の平屋ってどんなんですか(笑)。
腰越
これなんですけどね。

インタビュー

──
うわすご! なんじゃこれ。
腰越
これがうちのメインの事業なんですよ。これは構造的に言うと柱が三本あって。
──
ねじれてますよね。これ何なんですか。
腰越
右らせんと左らせんで垂直荷重を支えてるんです。
──
こんな設計どうやったんですか(笑)。
腰越
これのコンセプトで、全国の63自治体から材料を支給してもらったんですよ。ということは、仕口の加工が全部違うんです。
──
えー!
腰越
北海道のトドマツを使った場合と九州のスギ材を使った時に、木材の収縮率が違う、強度も違う。それらを組み合わせて統一するためにどうすればいいか、というところで技術協力を求められて、それが決まる一年八ヶ月前から日建設計に毎月打ち合わせに行って、どこの機械を使うとか、どんな金物を使うとか、全部の規格作りからやって、それで成功したんですよ。
──
いやあ、すごいっすねぇ…
腰越
そのチームが今度の担当なんです。で、腰越さんまたチームに参加してよ、ってことで、やることになりました。それから一年くらいかかって仕様を固めて、それで今、現物のモックアップを作ろうということで昨日から大阪で工事をやってるんです。
──
はあー。
腰越
私のメインの仕事というのはそういったゼネコンさんの仕事、いろんな特殊案件なんです。早稲田大学で村上春樹記念館をつくったり、国家プロジェクトだったり。私が木材に携わって四十数年経つんですけど、一般の工務店さんができない特殊な案件を請けてる。
──
なるほどー。
腰越
ただこれから先を考えた時に、これから人口が減っていって、ゼネコンさんの仕事もなくなっていく、そんな時代に次に何ができるかを考えてみたら、元々材木屋なので、そこに立ち返って「古材」という新しいステージを作りたいなと。そう思って古民家再生協会に入会したんですよ。井上さん(※協会顧問)も元々木材屋ですから。
──
そっかー。

インタビュー

木のことを教えていかないといけない

腰越
私、数年前にがんを患ったんですよ。
──
え、そうなんですか。
腰越
喉のがんで、ステージが早い段階だったから問題なかったんですけど、入院してる時にね、さすがにがんだって言われたら色々考えてしまって。自分は木材屋として何かを残したのかな、っていう思いがわいてきたんですよ。
──
ああー。
腰越
自分が今60を超えて、新木場の先代の社長たちにかわいがられたんですけど、これからは自分が後輩たちに何かを残してやらないといけないなと。そう思った時に、今の集成材、LVLなどの新建材は、本来の純粋な木材の使い方じゃないよねって。
──
はいはい。
腰越
日本の経済的には新建材でやっていかなければならないけど、本来の木造文化を守っていくためには、まず材料から見直さないといけないと思って、その時に「古材」が浮かんできたんです。
──
なるほどー。いや僕、腰越さんの村上春樹記念館とか、大阪の案件のお仕事を拝見していて、なんでこの人が古材を?っていうのがあったんですよ。
腰越
それは、そもそも、木の使い方をあまり知らない設計事務所さんがいっぱいいるからですよ。
──
そうなんですね。
腰越
そういう案件の場合、本物に近いものでつくってあげたい。無垢の木材を使う場合、今の建築基準法、消防法の中ではだんだん使えなくなっていってるんです。なぜかというと、木材にはもちろん欠点はあるからです。水に弱い、腐る、という。プラスチックや金属と比べた時にね。
──
はい。
腰越
でもこのオリンピックを契機に、木材のいいところが見直されてきている。たとえばこのテーブル(ホテルロビーのもの)、これは木目のプリントであって、本物の木じゃないですよね。こういうところも、手に触れた感覚のことを思えば、やはり無垢の方がいいですよね。
──
そうですよね。
腰越
そういうことを設計士さんと喋った時に、この世界はこの世界でいいとして、こだわる時には無垢の天板が欲しいよねと。そういう時に知識が必要になってくる。これだけ幅広だったら反ってくるんですが、じゃあどうすればいいかというと、新しい技術、材料を使って実現できますよと。
──
はい。
腰越
そういう提案をしていくんです。古材を使えばこういうものも使えるよ、こういう表現ができるよって、そういう立場です。
──
僕、古民家に住んでびっくりしたのが、床下のバラ板ってあるじゃないですか。畳の下に敷かれてるやつ。そのバラ板がまあ立派な木材で、堅くて分厚くて、捨てるのがもったいなくて、だから全部エタノールで洗って、いろんなところに再利用したんです。
腰越
それ広葉樹でしょ。たぶん。ヒノキじゃなくて広葉樹を使ってると思う。栗だとか。
──
あ、そうだと思います。とにかくかったいんですよ。それで板塀からテーブルから棚から、いろんなところに使ったんですが、8年経ってもビクともしない。
腰越
使えるんだよねえ。
──
板塀なんか雨ざらしなんですけど、全然劣化しないし、腐らないんです。そんないいものを、畳の下に使ってるなんて、100年前の木材のレベルってすごかったんだなって。
腰越
うん。まず今仰ったことは正しいんです。でも20年ほど前、某設計事務所のロビーで、許可もらって木を並べてね、昼休みに上から降りてくる従業員や建築家の先生方にね、アンケート用紙配って、すいませんけどこの場で知ってる木の名前を書いてください、ってやったの。
──
おお~(笑)。
腰越
日本で流通してる木材って200種類以上あるんですが、その時、多い人で15種類くらい、少ない人は5~6種類だったんです。
──
そうなんやー。
腰越
日本一の設計事務所さんが、木の名前を一番知ってくれてなければ、木は使っていってもらえないじゃないですか。
──
そうですよね。
腰越
これはやはり、私は元メーカーの人間なんですが、メーカーの責任であり、商社の責任もあるし、流通の中の責任なんだろうなと。だから誰かが木のことを教えていかないといけない。さっき仰ったバラ板も、栗を使った方がいい、虫にも強いし堅いし、針葉樹を使うよりもカビてても腐りにくいという適材適所があるから、長持ちしたんです。
──
そっか、それで傷んでなかったんですね。
腰越
そうです。それが杉だったらボロボロになってたかもしれない。
──
うち、床下の湿気がすごくて、カビがすごかったんですよ。でも全然木が傷んでなくて。
腰越
そうでしょ。そこなんですよ。そういう知識を設計事務所さんにも知って欲しいということで、いろんな活動をはじめたんですね。それの究極が古材なんです。
──
なるほどー。
腰越
ただ古材は、今の法律でいうと、構造材では、非住宅では使えないんです。住宅の中では来年からは使えるんですが。
──
あ、そうなんですか。
腰越
住宅では、今はサイズだけで基準が語られてるんです。たとえば105角を使いなさい、120角を使いなさい、というふうに。
──
はー。
腰越
そして非住宅の場合は、そこに木材の強度が求められてくる。ヤング係数を測らないといけない。
──
ああ、前にやってましたね。ヤング係数の測定。
腰越
そう。それで来年以降、木造であれば平屋であっても構造計算をしなさい、ということになる。そうなった時に、古材の強度についてはまだ規定がないんです。
──
はいはい。
腰越
井上顧問のご尽力で古材卸売業が20年かかってやっと認められて、来年から流通していくということになるわけですが、その法律が変わった時の基準がいるんですね。国交省さんの方でも、今回の管轄省庁は環境省なんですが、古材を今まで産業廃棄物として捨てていたのをリユースして、二酸化炭素を軽減していきましょうという趣旨の元でやっていくんです。だけども国交省さんの側から建築資材として考えた時に、じゃあ古材ってどういう使い方ができるの? というところを今から考えていかなきゃいけないんです。
──
なるほどなー。
腰越
そんな流れの中で先日古材のショールームをオープンしまして。式典をやったんですね。
──
おー! おめでとうございます。
腰越
その時に国会議員の先生に来て頂いたり、地元の先生、我々の関東の古材を扱うメンバーも来てもらって、これから古材をどう扱うかという第一回目のミーティングをやったんです。そしたら皆さん問題に感じてるのが、販売方法なんですよ。
──
ほー。
腰越
古材を集めるのはいくらでも集められるんです。でもその出口ですよね。法律が引っかかってくるんです。古材っていうのはほぞ穴が空いてたりするじゃないですか。
──
ええ。
腰越
あれは欠損率っていうんですよ。木材の欠損率、何パーセント空いてたらその木材強度は保てませんよと。その基準作りをクリアしていく必要がある。
──
そっかー。
腰越
その実績作りが今とても大事なんですよ。せっかく法律を変えてもらっても、我々の方でうまく運用していかないといけないよねって。

インタビュー

古材のショールーム

腰越
難しいのは、今まで法律上は産業廃棄物だった古材ですが、でも実際は流通してるわけですよ。グレーゾーンで。
──
皆さん使ってますよね。
腰越
その人たちが来年度以降、古材卸売業が法律的に認められましたとなったら、その人たちがどうするかというと、そのまま普通に売り続けると思うんですよ。でもそうじゃなくて、我々全国古民家再生協会、古材リユース推進協会としては、これを機会にしっかりした規格を作らないといけないと。
──
なるほど。品質を担保しないといけませんもんね。
腰越
そうです。そこは我々の古材やってる仲間の共通した思いです。
──
実際僕、よく小屋裏に登るんですけど、母屋を支えてる柱や束が、ほんとにこれ大丈夫なんか?っていうくらい…
腰越
(笑)
──
めちゃくちゃほぞ穴が空いてて。一カ所じゃなくて、もうクロスで空いてて(笑)。
腰越
あれって、抜いた瞬間に弱くなるからね(笑)。木が入ってる状態では強度は保てるんだけど。
──
まじすか。うちやばいな(笑)。
腰越
そういう古材に対して、数値化をしていかないといけないんですよ。この木材強度は、ヤング係数を測った時に、E90、E110とかそういう係数があるんですが、国交省で決められている数値に準じた強度を持った古材を、我々は出せるんです。
──
はー。
腰越
でも今現在、古材が最も多く使われているのは意匠ですよね。
──
そうですね。構造材っていっても、今の建築は大壁だから…
腰越
見えないですからね。だからうちのショールームでは、元々の柱に抱き柱として古材を使って、そこに梁を架けてるんです。
──
ほーっ。
腰越
そういうやり方で意匠的に使ったりしています。
──
やっぱり木を着色しただけじゃダメで、角が丸くなってるとか、浮造りになってるとか、ああいうニュアンスって古材じゃないと出せないじゃないですか。だからもっと気軽に古材を意匠で使えればいいなって常々思ってるんです。
腰越
そういうことであれば、一度うちのショールーム見てもらいたいですね。ちょっと写真でご紹介しますけど。

インタビュー

腰越
これが外観、二階の和室、その上は在来工法で金物が入ってるんです。
──
はい。
腰越
だからこのショールームに来ると、今の建築基準法で建てた新築における古材の使い方、仕口なんかは全部ここで見れるんですよ。
──
おー。
腰越
さらに一階には先ほど紹介した抱き柱があって。

インタビュー

腰越
ここなんか、本来は鉄骨が入ってるんです。でも先ほど仰った「丸み」を再現するために全部ちょうなで削って加工してるんです。
──
すげー!
腰越
H鋼に垂木を抱かせて、板を張って、角を全部なめてる。そしたら古材にしか見えない。
──
すごいな。鉄骨だとは全く気付けないですね。
腰越
こういう技術があるんです。これがいろんな設計事務所の先生とやる時に、鉄骨を隠したいならこういうやり方がありますよと言ってやってるやり方なんです。
──
そっかー。
腰越
今、新しいものの仕事と、古いものを守っていく仕事と、両輪でやってるんです。
──
腰越さんって意匠もこだわってこのレベルでされるじゃないですか。僕ね、古民家ってプロとお話するとすぐに構造の話になるんですけど、「意匠」ってめちゃくちゃ大事だと思ってて。
腰越
ですよね。
──
構造と意匠というのもまた両輪だと思うんですよ。
腰越
なぜショールームを作ったかというと、ただ古材を地面に並べてても分かんないでしょ。
──
はいはい。
腰越
やっぱり在来工法ならこう、伝統構法ならこう使えますよって、「見える化」をしてあげたかったんです。
──
いやほんとそれ大事ですよ。古材って転がってるだけじゃただの古い木ですからね。
腰越
あとうちは広い土地を持ってて、実際のものを並べて比べることもできるし、古材を高圧洗浄にかけられる設備もあって、それから直射日光を避けるための倉庫もあって、乾燥させたのちラッピングして出荷する、そういう一貫した流れが可能なんです。
──
すごいなー。
腰越
ここまで古材を一貫して扱えるところは他にないんじゃないかって思います。
──
それは安心ですね。古材を扱うってなったら、やっぱ気持ちだけじゃなくて設備とかも必要ですもんね。

インタビュー

古材の正しい流通を目指す

腰越
空き家っていうのは日本に800万棟以上あるんですが、その中の約30%が古民家だと言われてるんです。
──
へー。
腰越
で、今みんながやってる古民家の再利用、民泊にするとかレストランにするとか、そういうのが全体の何%なのか、という話があって。
──
ああ~。
腰越
それって270万棟の古民家のうち、1%くらいなんですよ。
──
そうなんですねえ。
腰越
てことは、残り268万棟は、ただ解体されるだけ。そこから出てくる材料って、計算すると、日本の新築木造住宅の5年分の材料なんですよ。
──
はー! すごいっすね…
腰越
日本の山を3年切らなくても、古材だけで新築が建てれるんです。それくらいの材料が産業廃棄物になって捨てられてる。
──
あの、みんな知らないんですよ。木は伐採から300年は強度が上がり続けるって話、僕らは知ってるけど一般の人らは知らないじゃないですか。
腰越
知らないよね。ただ今、Kさんが木材をたくさん使ってくれてるじゃないですか。その隈さんがいろんなテレビに出て、法隆寺のことを紹介してくれてるんです。
──
ああー。
腰越
2000年の法隆寺が強度を保ってますよと。そういうことをね、設計事務所の先生たちが、一般の人たちに伝えるべきなんです。でも木の種類すらちゃんと知らない設計士がいるというバラツキが問題があって、それは我々木材人としての責任なんです。
──
そうなんですね。
腰越
施主さんに説明する現場にいる設計士にちゃんと木材の知識を与えないと、木材の需要は増えていかないんですよ。最終的に求めてくれるのは施主さんですから。
──
たとえばクロニカの読者さんなど、一般の人たちが古材を使いたいってなった時に、腰越さんのところに直接問い合わせても大丈夫なんですか?
腰越
もちろん。全然大丈夫です。ショールームもご案内しますよ。
──
お、それはありがたいです。
腰越
木材の業界の中で、銘木組合というのが昔からあったんですが、本年度で解散することになってしまって。
──
そうなんですか。
腰越
施主さんが住宅に和室を作らなくなって、需要がなくなったんです。
──
そっかー…
腰越
木材業界がそこまで変わったんです。マンションに和室はつくらないし、戸建てでもつくらなくなった。銘木組合っていうのは、床の間のいい床柱、とかそういう世界なので、それが全部ダメになったんですよ。
──
そうなんやー。
腰越
それで古材がどっちに入るかというと、たぶん銘木なんですが、じゃあどうやって価格を決めるのか? 商工組合の方はベニヤ1枚、垂木1足からすべて価格が決まってるわけですよ。でも銘木っていうのは、見た目の主観で値段が決まるんです。
──
はー。
腰越
じゃあ古材をどうするか。それに安心と安全を担保して適正価格で販売するためには、我々木材屋の目で見た市場で販売していかないといけないよねっていうのが、仲間の共通認識です。
──
なるほど。
腰越
で、銘木の場合は、1等2等というランクがあるんです。古材にもその等級付けをして、それをお客さんに説明するのが一番分かりやすいかもしれないねって、この前提案したんです。
──
それはいいですよ。抽象的に言われても僕らは分かんないんで、数字化は分かりやすいと思います。
腰越
たとえば欠損率が何%だから、木材強度としては向かない、ただ意匠には使える、みたいな説明も付けることができればいいなと思います。そうしないとグレーゾーンでやってる人たちと一緒になっちゃうから。
──
でもそうなると、うちの構造材なんかほぼ欠損してますから…(笑)
腰越
(笑)
──
やばい家になります(笑)。
腰越
でもそういう形にしないと残らないよねって。

インタビュー

移動組み立て式の家

──
これまで古材を使われたお仕事ってどんなのがあるんですか。
腰越
以前、日本の自動車メーカーのイタリアの展示会があって、その時にメーカーがオール木でできた車を作ったんですね。シャーシからかにから全部。そこに電気自動車のモーター入れて。
──
へぇーっ。
腰越
で、そのお披露目にあたって、何か展示が寂しいから、腰越さん何か考えて、と。それで作ったのが、その車には「時代の流れ」っていうコンセプトがあったので、だったら時代の流れを木で表現しようと思って、新材から10年、20年、50年、100年というグラデーションの木のパネルを作った。
──
うわ、面白い。
腰越
高さが4m、幅が20mのパネルになって、それをイタリアに送ったんです。
──
すご!
腰越
あとは、東北の震災あったじゃないですか。その時に「奇跡の一本松」ってありましたよね。
──
覚えてます。
腰越
あれは赤松と黒松の中間くらいの松で仙台松っていうやつなんだけど、その古材を持ってたんです。伊達藩の築200年くらいの酒蔵が解体された時に出てきたすごい材料を、20年くらい前に買い付けてたんです。それをずっと寝かしてたの。
──
はい。
腰越
それを晴海でやったエコプロダクツっていうのがあって、あるゼネコンからそこに何か出展してくれって言われて、その古材を使って移動組み立て式の茶室を作ったんです。
──
ほぉーっ!
腰越
三畳くらいの小さいやつね。コンセプトとしては、移動できて、リサイクルもできる。当然古材ですから、できるんです。
──
ああー。
腰越
それでいろいろ調べてて面白かったのは、『方丈記』の鴨長明の住んでた家というのが、移動組み立て式だったんです。
──
え、そうなんですか。
腰越
650年くらいの時代でね。日本でそんな古くから移動組み立て式の家があったんだと。「方丈庵」っていうんですけど、そのレプリカが京都の下鴨神社にあるんですよ。
──
へぇーっ。
腰越
それを視察に行きましょうって見に行って、現物と文献を見て、あ、こういう造りでできるんだって。
──
そうなんですか。
腰越
方丈記に書かれてるのは、牛車2台にその材料を積んで、旅に出て、ここの街が好きだ、この山が好きだ、というところを見つけて、そこで方丈記を書くんです。その付近の農民を集めて、組み立てて、家をつくる。
──
へぇーっ!
腰越
で、飽きたらまた別のところへ移動するという。そういうのが実際にあったんです。それで自分たちも同じものを作ったら、特別賞を獲った(笑)。
──
すごいなー。
腰越
それも古材の活用方法ですね。適材適所なんです。

インタビュー

古民家の耐震研究

腰越
以前から私は東京都の建築士会事務所の先生たちに、来年から法律も変わるから、古材と古民家について一緒に勉強会やりませんかって申し入れをしてたんです。
──
はい。
腰越
それでじゃあやりましょうってなったんですが、私は大体40代くらいの建築家の人たちが集まってくれるように募集かけてねって担当者に言ってたんだけど、そしたら来たのが40代じゃなくてもっと上なんです。なんかジイちゃん多くてめんどくせーな、って思ってて(笑)。
──
(笑)
腰越
で、いざ名刺交換してみたら、国立大学の教授なんです。
──
まじか。
腰越
日本の構造の第一人者たちなんですよ。
──
うわ、すごいな。
腰越
その先生たちもこれからの古材と古民家に興味を持ってるんですよ。
──
そっかそっか、そういうことか。
腰越
で、若い人たちはオンラインで参加してるわけ。その時は耐震の杉本さんと一緒に行ってたんですけど、そんな先生たちの前で俺ら何話すんだって(笑)。
──
いやでもそれ素晴らしい機会ですよね。
腰越
で、話をしたら、大学の先生が「腰越さん、古民家っていうのは今の免震構造の一番のはしりだからな」と。
──
はいはい。
腰越
石場建てって揺れる、吸収する構造じゃないですか。それはスカイツリーなんかと同じですから、古民家がベースになって最先端の高層建築が設計されているんだと。
──
そうなんですよね。
腰越
大学でも、コンクリで石場建てをつくって、そこで揺れや強度を研究してるんです。
──
うわ、そうなんや。さっすがですね。
腰越
だから古民家再生協会さんがやってる時刻歴応答解析の、その先を私たちは研究してるんですよって、杉本さんも私も逆に教えられるわけ(笑)。
──
へぇーっ! すごい!
腰越
まあそういうことをやりながら、これから特に古材の強度の出し方について、協力しながら研究していきましょうという話になりました。
──
それ、めっちゃ明るい話ですね。
腰越
とにかくそういういろんなことをやって、世の中にPRしていきたいんです。
──
いや、クロニカって一般の方々が見られてますけど、たぶんプロもめっちゃ見てると思うんですよ。だから消費者だけじゃなくて業界の方々もこのインタビューを読んでもらって、古材を知ってもらいたい。今回、そう思って腰越さんにお声がけしたんです。
腰越
ありがとうございます。
──
てかもうこれ、ホテルのロビーで会って近くの椅子に座った瞬間から1時間ぶっ通しで喋りまくってて…
腰越
(笑)
──
すぐそこにあるフリードリンクすら飲まずにね(笑)。腰越さん、仕事終わりでホテルに帰ってきたところなのに。
腰越
すみません(笑)。
──
いや、いつもインタビューでその方の価値観や思いを知るために、生い立ちとかをお聞きしてるんですけど、腰越さんに関してはもうこれ読んでる人はみんなどんな人か分かったと思うんで、必要ないです(笑)。
腰越
いやいやどうぞ訊いてくださいよ(笑)。

インタビュー

就職先での偶然の出会い

──
じゃあ軽くお願いします(笑)。
腰越
私は生まれも育ちも北海道なんですけど、剣道やってたんです。それで大学を卒業する時、アメリカで剣道の指導者を募集してたんで、親父に「アメリカに行きたいんだけどいいか」って相談したら、いいぞって言ってもらえたんです。
──
えー!すご!
腰越
それでアメリカに行く予定だったんだけど、卒業直前の2月に父親が倒れちゃった。で、俺は長男だし、急遽働かないといけないことになって。
──
えー!
腰越
それで大学の剣道部の顧問の先生に働き口を相談したら、その時に紹介されたのがたまたま木材屋だったんです。
──
へぇーっ。
腰越
それで入社したら、すごい縁があったんですよ。入社して三ヶ月くらいの時に役員室に呼ばれて、役員が、おまえ腰越っていう名字だけど、腰越タケオって知ってるかって。
──
はい。
腰越
タケオっつったらうちのじいさんですよ、って答えたら、「そうか。分かった。お前のことは俺が面倒見る」って言われて。何言ってるか全然分からなかったんですけど、腰越家っていうのがこれもまた縁のある話で、神奈川の鎌倉に腰越っていう街があって、その近くに材木座海岸っていうのがあるんです。
──
ほう。
腰越
で、うちの本家のおじさんに聞くと、元々はそこの豪族だったっていうんです。それでその材木座海岸っていうのが、江戸城を建てるための木材の集積をするための場所で、その腰越家が木材の管理をしてたらしいんですね。
──
えっすごいな。
腰越
その後、腰越家はどこに落ちたかっていうと、埼玉県、次に新潟、そこから北海道に渡ってるんです。その時に天皇陛下から北海道の山の管理を任されて帯刀を許された。その話を聞いて、そういえば私が小さい頃に本家に遊びに行った時、丸太の上で遊んでたよなあって。それで詳しく聞いてみたら製材屋をやってたっていうんです。
──
へぇー。
腰越
その役員さんに面倒見るって言われてから、運転手をやらされて、一緒に出張行ったり飲んだりしてるうちに教えてくれたのが、戦時中の話なんです。
──
ほー。
腰越
うちのじいさんって山持ってたじゃないですか。当時その付近の村から子供が学徒動員で働かされて、その山に行ってたらしい。うちのじいさんはその子供たちの一家に白いご飯を食べさせてやって、子供が大学に行けるような仕事を与えてくれたと。その子供がその役員さんだったんですよ(笑)。
──
すごい話!
腰越
しかもその役員っていうのが北海道の「木材の神様」と呼ばれた最後の一人だったんですよ。その最後の弟子が私なんです(笑)。
──
すごいっすね…マンガみたい…
腰越
その人に私もめちゃくちゃ怒られて、工場でこれ(指)落としちゃった時もひどく怒られて。
──
わっ! 気付きませんでした! 2本無い…
腰越
小指、薬指、中指までいったんだけど、中指はなんとか繋がった。
──
うぇー。
腰越
作業員じゃなくて、現場監督やりながら品質管理や工程管理やってる人間が、なんで工場入ってるんだって。でもその時、工場の班長が風邪で三人休んでたんですよ。これ三人も休んでたら数字が出せないから、おれ工場入りますって言って、朝8時に電気入れて機械動かし始めて、8:15にこれ(笑)。
──
えぇ…(笑)
腰越
その時はほんとに怒られたんだけど、銘木市で俺が一本60万で落とした原木が工場に入ってきた時も、おまえ墨付けしろって言われて、教えられた通りに自信を持って墨付けして、ここにノコ入れろって言ったら、その瞬間に垂木で頭殴られて、5針くらい縫った。
──
(笑)
腰越
てめぇは便所の蓋つくるのか、婚礼家具の前板をつくるのか、どっちなんだ!って。それで「いや、今回の注文は、有名家具メーカーさんから入った婚礼家具の前板です」って言ったら、馬鹿野郎!俺が教えたのはここだろう!って。
──
ほー。
腰越
そして俺が墨付けしたところから一寸五分、40mmくらいの横に墨付けされたのね。それで「まずは俺んところ挽け」って言われて挽いたらピッカピカの面が出てきた。そして俺が墨付けしたところをやったら、1.6mくらいのところに節がどんどん出てきたんです。
──
へぇーっ!
腰越
そういうスパルタなんですよ。今だったら大変な話ですけど、木材のイロハはそうやって教えてもらったんです。

インタビュー

木材のみの文化は日本だけ

腰越
そもそもなぜこの国にここまでの木材文化が生まれたのかっていうと、素材があったからなんです。
──
と言いますと?
腰越
法隆寺の時代にノコなんて無いのに、なぜあれほどの建物が建ったのかっていう話なんですけど。
──
はい。
腰越
運送方法だって無いじゃないですか。てことは、今法隆寺が建ってる周りに、いい原生林があっただけなんです。
──
なるほどー。そっか。
腰越
それを斧で倒すでしょ。そして、縦割り製材っていって、原生林の素直な真っ直ぐな木に、まずくさびをポーンと入れる。そしてグッと割ったらパカンって真っ直ぐに割れるんですよ。
──
そうなんですね!
腰越
それだけの良質の材木、森林に恵まれてたから、あの時代にあれほどのものが建てられたわけ。
──
はーっ。
腰越
で、ノコには縦挽きと横挽きの刃があって、当時は縦挽きの刃はなかったんです。横には挽けるけど縦に切断できなかった。でもくさびを使えば板や構造材を作ることができたんだって、そういう知識も師匠から教わりました。
──
勉強になります。
腰越
だから木材っていうのは適材適所で使っていかないといけないっていう話ですね。私、メーカーを辞めたあと三井物産の木材部で商品開発をやってたんです。
──
はい。
腰越
それでカナダ行ったりドイツ行ったりオランダ行ったりイタリア行ったりして、あそこにあんなのあるから見てこい、その商品を入れるためにその工場を日本仕様に変えてこいとかね。
──
ほーっ。
腰越
だからいろんなものを見て、そこでもいろんなことを学んでるんです。
──
やっぱ海外に行くと日本の古材の良さも分かりますよね。
腰越
日本だけなんですよ、純粋な木材の文化は。
──
あ、そうなんですか。
腰越
他の国は、石と木の文化、土と木の文化。木との融合文化なんです。木材のみの文化は日本だけ。
──
そっかー。
腰越
なぜかというと、四季があって、素直な原生林があって。そういう環境があったということです。
──
なんかあれですね、そういう腰越さんの膨大に積み上げられてきた知識や見識を、これから多くの方々に伝えていきたいですよね。
腰越
そうですね。そういう意味では、今やってる万博も、オリンピックも、昔のやり方でやってますよ。
──
そうなんですか?
腰越
なんでこんなところに「雇いざね」(※板と板を繋ぎとめる方法の一つ)入れるの?って。
──
雇いざね…
腰越
昔ながらの大工さんの技術なんですよ。
──
国際的な舞台だから、そういう伝統技術が紹介できるのはいいですね。
腰越
いや、見えないんだよ(笑)。
──
え。
腰越
見えないところでそういう技を使ってる。でも木を扱う時、それが一番理にかなってるんです。
──
はーっ。すごいな。無理に伝統を守るとかじゃなくて、普通にそれが一番いいから。
腰越
木材屋には教科書がなくて、そういう技も全て先輩たちから教えられてきたんです。その一つ一つの点が、こういう案件やお客さんの提案の時に繋がって、線になる。
──
なるほどー。いやでも理にかなってるっていうのがすごいと思います。それは雇いざねだけじゃなくて、古材もそうだし、古民家もそうですよね。
腰越
そうそうそう。仕口の組み方とかね。
──
あれって木材文化を生んだ日本人の答えなんですよね。
腰越
答えなんです。それを今の建築の中にも入れていこう、というのが私の考え方です。
──
はあ、おもしろ… めちゃくちゃためになりました!

おわり

施工例







株式会社真輝建備

※直接お問い合わせの際は「クロニカを見た」とお伝え頂くと
何かしら良いことがある気がします。

代表 代表取締役 腰越予志裕
資本金 5,000,000円
住所 【本社】
〒162-0065 東京都新宿区住吉町1-11 OSKビル301
【千葉倉庫兼工場】
〒292-1142 千葉県君津市小糸大谷135番地
事業内容 木造住宅の設計施工
木製特注家具・什器備品の企画及び設計、生産、施工
木工造作工事
住宅・マンション増改築・リフォーム企画及び設計、施工
店舗デザイン企画及び設計、施工
リニューアルに関する企画及びコンサルティング業務
古物商取引による古材販売
上記各号に付帯する一切の業務
公式サイト https://shinkoukenbi.net/

株式会社真輝建備 /
古材倉庫 君津店への
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