こないだね、「大工さん」と「工務店」って違うんですねと、そういうご質問を頂いたんですね。
そんでびっくりしまして。
何にびっくりしたかというと、その方がその違いを知らなかったことにではなく、その違いを知らなかった頃の自分をすっかり忘れていた自分にびっくりしたんだぜ。
その質問を目にし、「そうだった!!」と僕は思い出しました。
そう言えば7年くらい前は僕も大工と工務店の違いがフワフワしてたぞと。
「この家は有名な大工さんに建ててもらった」という表現はよく耳にするけど、その一方で「どこそこの工務店に頼んだ」みたいな言い方もされる。
んん?
えっじゃあ大工さんって工務店とは別なん?
工務店さんのことを大工さんって呼んでるんじゃないの?
という疑問があるところに、「うちは工務店じゃなくハウスメーカーに頼んだよ」でさらに混乱し、ダメ押しで「うちが頼んだハウスメーカーは〇条工務店」とか言われた日にはもう考えることをやめてゼルダやっちゃいますよね。
分かります。
僕はこれまでブログを書いてきて、そこを説明してなかったなと、知らないうちに建設業界にどっぷり浸かっていた自分を反省しました。
てことで今回は「大工」「工務店」「ハウスメーカー」「設計事務所」の違いについて、クロニカ流に説明していこうと思います。
ではまずは「大工」と「工務店」の違いについて。
えっと、何で例えればいいんでしょうか。
やっぱり鬼滅でしょうか。
大工が炭治郎なんですよ。
でも炭治郎が一人ですべての鬼を退治するのはなかなか厳しいと。
やっぱチームがあった方がいいと。
そういうことで生まれた鬼殺隊およびそれをまとめる産屋敷耀哉のポジションがすなわち工務店です。
え? 鬼滅は流行りすぎてて逆に見てないって?
じゃあ呪術で言うと大工が虎杖で工務店が夜蛾。
進撃で言うと大工がエレンで工務店がエルヴィン。
ゴールデンカムイで言うと大工が鯉登で工務店が鶴見中尉。
あさひなぐで言うと大工が旭で工務店がやす子先生。
……もういいですね。
つまり、飲食店でいうところのシェフとオーナーの関係です。(最初からそう言え)
簡単に言うと、すごく腕のいいシェフがいると。
でもそのシェフがお客さんに料理を提供するにはいろんなものが必要です。
まず店がいるし、コンロとかオーブンもいる。助手もホールスタッフも欲しいし、広告宣伝も必要。
それをまとめて用意できるのが「工務店」というわけです。
でも、一人で屋台でやってるシェフもいるわけ。
何かのイベント出店の時には、知り合いに手伝ってもらって、結構な数の料理を提供できたりもします。
そういうポジションが「一人でやってる大工さん」。
かたや、工務店専属、その工務店の社員として仕事をする大工さんもいます。
べつにどっちがえらいとかはありません。
営業形態の違いです。
金額的には、一人でやってる大工さんに頼む方が確実に安いです。会社の諸経費とか無いですからね。
でも安い分、その大工さんが他のメンバーをちゃんと揃えてくれるのか? ちゃんと工程管理、品質管理してくれるか? というとそこまではしてくれないケースも多々あります。
特にメンバー集め。これが結構大変で「家づくりは大工さん」とか言ってても実際はすごい数の業者、すなわち解体屋、屋根屋、水道屋、電気屋、板金屋、樋屋、外構屋、設備屋、建具屋、畳屋、パワーボード屋などなどの皆さんが関わってくるのですよ。
そんで、その大工さんに業者全員分の知り合いがいるとは限りません。
逆に、これを一人である程度集められる施主さんは、大工さんや他の業者さん一人一人に声をかけて、自分が監督になって、家を作ってしまうことも可能です。
この方式を「分離発注」と言います。
これは当然一番安い方法で、ある程度の知識と信頼関係があれば案外できてしまうんですが、そのかわり工事に何かあっても100%自己責任なんですね。
だってその現場のトップが自分なんだから。
あとこれは余談ですが、工務店の社長が現役大工だったり、元大工だったりもします。
いわゆるオーナーシェフと同じですね。うちがお世話になった工務店さんはこのタイプでした。
では次に「工務店」と「ハウスメーカー」の違いについて説明します。
簡単に言うと規模の違いです。
単純に「工務店」というと大体は地元にある小さい工務店さんを指します。
よくコンビニに歩いて行く途中に「〇〇工務店」という達筆なノボリの立った新築の現場があってそこに停まってる軽トラの運転席でラジオ聞きながらコンビニの弁当喰ってる金髪の兄ちゃんいるじゃないですか。
ああいう感じですね。
一方「ハウスメーカー」というと大体は全国展開してる大手さんを指します。
よく一流大学を出て新卒5年目くらいのまだあどけなさが残る顔のわりに高そうな革靴履いてブランドもののスーツ着て相づちが3パターンくらいしかない営業マンいるじゃないですか。
ああいう感じですね。
どっちも偏見ですけど。
それでややこしいのは、職人が全員黒髪でピシッとしてて営業マンもいてアフターもバッチリで広域対応する工務店さんも普通にあるということ。
え、じゃあそれってハウスメーカーとどう違うのってなりますよね。
実はその辺に明確な規定はないのですよ。
その会社が「工務店」だと言えば「工務店」なんですね。
だから「工務店」か「ハウスメーカー」のどっちに工事を頼んだ方がいいかというと、そんなもんは分からんすね。
会社による、人による、としか言えません。
だって弁当喰い終わってダルそうに窓開けて缶コーヒー片手に煙草吸ってる金髪の兄ちゃんが実はスーパー大工さんでめっちゃいいやつで工事終わった後もちょくちょく見回りに来てくれる可能性だって全然あるし。
高級腕時計をさりげなく巻いてて革靴の先がとんがってる営業でも実は実家が貧乏ですごい苦労して奨学金で入った大学で建築の道に目覚めて文系の自分でもなんとか家づくりに関わりたいという情熱でハウスメーカーに就職した子かも知れないし。
工務店もハウスメーカーも様々ですからね。
ただ客観的事実としては、地域密着の工務店よりもハウスメーカーの方が、金額は全然高いです。いろんな広告宣伝費や人件費、研究費がかかってますから。
それに地元工務店がハウスメーカーの下請けをやってるっていうのは普通によくある話。
ハウスメーカーに頼んでも、結局施工には近所の大工さんが来るというケースはざらにあるようです。
では最後に、素人にとって一番謎なジャンル、「設計事務所」について説明します。
正直今の僕でさえもいまだにフワフワしてます。
そもそも「設計」ってなんやねんって思いますよね。
設計というのは、単純な単語の意味としては、家の「意匠(デザイン)」や「構造」の設計を指します。そしてそれを紙に描いたものが「図面」です。
古民家リノベならまだしも、新築工事はこの図面がないとできません。
なので設計ができる人は家づくりに絶対必要な人員なのです。
で、そんな設計をする人のことを「設計士さん」と呼び、設計士さんの事務所のことを「設計事務所」と呼びます。
さらに細かく言うと設計士さんには一級建築士と二級建築士というクラスがあります。
一級と二級の違いは何かと言うと、設計できる建物のサイズとかが違います。大型免許と普通免許みたいなもんです。で、一般住宅である古民家に関しては普通免許で充分なので、一級も二級も関係ないです。
でも「一級建築士」って聞くと「なんかすごい…」って思いません?
「今度の家は一級建築士の先生に頼んで建ててもらったんや(ドヤァ)」みたいに言ってくる親戚のおっさんいません?
そういった影響で、われわれ素人は「一級建築士」なんて聞くとなんかもう「巨匠」「コンクリート打ちっぱなし」「ザハ案」みたいに思いがちですよね。
でもそんなことないんですよ。
僕もたくさんの工務店の社長、熟練の大工さん、建築士さんなんかと対談させて頂いてますが、みなさん基本的に、僕と同じ普通のおっちゃんです。
僕ら一般人が勝手に想像する一級建築士は、たとえばなんか本出したり、賞獲ったり、奇抜なデザインで話題になったり、建築雑誌に「モダニズムの対義語は装飾でなく虚構である。このメイン・フロアのヴォリュームは4本の抽象的な立柱で維持され、曖昧な緊張を孕みながら空間そのものを定義している」とかよくわからんこと書いてるイメージですが、そういう人は一級建築士というより「建築家」というジャンルになりますね。
ほらまた新しいワード出てきたよ! 工務店と設計事務所の違いもまだ聞いてないのに「建築家」って何だよ! どう違うんだよ!
とお怒りの皆さんすいません。説明します。
建築士と建築家はどう違うのかというと、べつに明確な意味の違いはないです。適当です。自称です。自分が建築家だと言えば建築家なのです。たぶん。
まあいわば「先生」とか「スペシャリスト」とか「マスター」みたいなもんです。
自分で「スペシャリスト」って言っちゃっても大丈夫なくらい実績と自負がある人が自分で名乗ってる、もしくはそう呼ばれてる、みたいなもんじゃないかなと思います。
とにかくそんな方々が、「〇〇設計事務所」と書かれたドアの向こうで、日夜コツコツといろんな建物を設計しているのです。
あ、ついでに書いとこ。
みなさん、建築士さんのことを「設計士さん」って呼ぶんですよ。
でも厳密に言うと「設計士さん」っていうのは国家資格が無くて、基本家の設計にはメインで携われない立場の方のことを指すらしいので、建築士さんのことを設計士さんっていうのは間違いなんですが、でも設計する人をまとめて設計士さんって呼んでますし、なぜかみんなあんまり「建築士さん」なんて言わないですね。
ややこしいわ!!
さて気を取り直して、肝心の「設計事務所」の説明をしますと、そういう建築士さんたちが他の事務所やハウスメーカーから独立して自分で事務所を持つ時につける名前なんですね。
そして設計事務所と工務店は、基本的には協力関係にあります。
設計事務所が考えたプランを、工務店が形にするのです。
こう書くと、え? じゃあ工務店は工務店だけで家が作れないの?
と思ってしまいますが、実は工務店さんのスタッフの中にも一級/二級建築士さんって普通にいるんですよね。
これ僕全然知らなかったんですけど。
なので工務店さんだけでも家づくりは可能です。
とか書くとまた、え? じゃあ設計事務所いらんやん、となりますが、
自分の看板かかげて設計事務所構えてるような建築士さんは、誰でもできるような仕事をやってたらメシ食えないので、その提案、設計、デザインなどに特色のある方が多いと思われます。
たとえば工務店に所属する設計士さんよりも、単独で事務所を構えてる設計士さんの方が、専業の分いろんなこと(周囲の環境やら家族の形やら)に思いを巡らせて、そのお客さんの将来まで見越したきめ細かな提案をしてくれるんじゃないかなと思いますし、デザインだってキレッキレのやつや美しい意匠を提案してもらえるんです。
ただその場合、もちろん普通に工務店に頼む工事費に加えて、設計事務所に払う設計料というお金が発生します。
シュッとした建築雑誌に載ってるシュッとした家に住む、子供までどことなくシュッとしてる笑顔の〇〇さん家族みたいな方は、まあ99%が自分のセンスじゃなくてそういうシュッとした設計事務所に金払って頼んでるんですよ。
そんなやつらはただの金持ちなので無視してOKです。
なんの話や。
ちなみにこれは余談ですが、僕は古民家再生を地元の社員3人(奥さん含む)の工務店さんに頼んでわーわーケンカしながら二人三脚でやりました。その選択は大正解だったと思ってます。そして次に何かを建てるなら、今度は知り合いの設計士さんにお願いしようと思ってますよ。
自分でやる、工務店に頼む、設計事務所に頼む、どれが正解かなんて誰にも分かりません。
その状況ごとに、その建物ごとにベストな選択は変わってくると思います。
あ、あともう一つだけ、ややこしいことに、完全に工務店化した設計事務所さんもあるということをお伝えしておきますね。
そういうところは「設計事務所」という名前であっても実際普通に施工もするし工務店と何一つ変わらなかったりする。
この辺も「自称」の世界です。
ていうかこの業界、自称多ない?
僕、前に何人かの社長や設計士さんにこの辺のこと質問しまくったんですよ。
「これとこれ、一体どう違うんですか!」と。
そしたら皆さん「うーん……」みたいな感じだったので(実話)、この辺の呼称の違いはあんまり深く考えない方がいいかもです。
いやー長くなった長くなった。
いつもごめんね。いらんこと書いて。
まとめます!
新築の場合、家づくりは「設計 → 施工」!
設計だけやるのが建築士(設計事務所)さん!
設計も施工もやるのが工務店さんとハウスメーカーさんと一部の設計事務所さん!
施工だけやるのが大工さん!
※ちな古民家リノベの場合は設計いらずで大工さんだけでできる場合あり!
そして見積金額が高い順は
ハウスメーカー > 中規模工務店 > 地元の小さい工務店 > フリーの大工さん(分離発注)
です!!
もちろん例外アリアリ!!
以上、長々と書いてみて思ったのは、そりゃ一般の人は分からんよなあ…ということですね。
大工つっても国家試験あるわけじゃなし。
建築士以外は全員「自称」の恐るべき世界。
今回そんな建設業界の謎を、一般目線で解説してみました。
なお一部偏見や誤解があるかも知れませんので、正確な知識が欲しい方はwikiで調べてみてくださいね。
おわり。