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現代日本の街並みをどうにかしたいという話

今回のお題は「現代日本の街並みをどうにかしたい」。
これはほんと僕が毎日憤ってる話なので、ちょっと長くなりますが、ぜひ最後までお付き合いください。

皆さん、海外行ったことあります?
海外。
ワイハーでも西サハラでもどこでもいいんですけど、そこでどんな建物が建ってたか、地域の人たちがどんな家に住んでたか覚えてますか?
「日本以外の人々がどんな家に住んでるか」
正直、これを知ってる人と知らない人で、家づくりの感覚は180°変わってくると思います。

僕が初めて自力で海外に行ったのは19歳の時。当時の最低時給640円でバイトして必死に貯めたお金でイギリスに行って、イーストボーンっていう町の英語学校に二ヶ月通いました。
そこには世界中から英語を学びに来ている14歳~50歳くらいの人たちがいて、僕はそこでパイロットを目指すクソ真面目なイタリア人、クウェート軍の不良エリートたち、看護婦さんやってるかわいいスイス人、男勝りなアルゼンチン女子、ボンボンの香港人、めちゃくちゃギターが上手いスペイン人コック、チャラ男のドイツ人(のちに看護婦スイス女子とデキた)、下ネタしか言わんタイ人、そしてお世話になった初老のイギリス人ご夫婦たちなんかと交流を深め、「世界」というものの一端に触れました。
その話はまたどこかで書きますけど、まずそこで僕は「日本」という国を思いっきり客観視することができるようになったのです。
たった二ヶ月ですけど、19歳の濃密な二ヶ月ですよ。
帰ってくる頃には英語で夢を見てたし、帰国して数日は日本語を喋れなくなってたし。それくらい一度「日本」というものから離れて、また戻ってきたわけです(今は英語喋れないYO!)。
でね、
帰ってくると日本のいいところ、ダメなところが見えてくるわけです。
その時は家とか建物にあまり興味が無かったので、日本の街並みについては何も思いませんでしたが、ホームステイさせてもらってたイギリスのレンガ造りのお家はめちゃくちゃ可愛くて、街並みもめちゃくちゃ綺麗で、嘘みたいやな~って思ったのは覚えてます。

イギリスの街並み
街並みの写真がなかったのでGoogleストビューより抜粋。僕がステイしてた当時と何一つ変わらない街並み。


借りてた部屋から裏庭を見下ろす。イギリス人は裏庭を愛し、そこでハーブを育てて紅茶を飲みます。

それからタイの安宿を泊まり歩いたり、ドイツに友達を訪ねて行ったり、ちょこちょこ旅行はしてたんですが、「日本の街並み」というものを強烈に意識したのが2011年と2012年の旅行でした。
2011年、当時住んでたボロマンションの自宅で鼻をほじりながら映画『ゴッドファーザー』を初めて観た僕は、観終わった後、あかん、これは行かんとあかん、シチリアが俺を呼んでいる、と衝動的に立ち上がり、その場でネットで宿を予約して、貯金をはたいてエアチケットも押さえて、その二週間後くらいに嫁と一緒にシチリア島に旅立ちました。
そこで僕はこんな風景を目にしたのです。



街の全景。すでにかわいい。


街の中心部。


中央広場。


街の図書館。図書館やでこれ。


街のカフェで談笑する人々。

いかがでしょうか。
この街は海の絶景が有名だったり、リゾート地だったりしますが、規模としては地方の小さな街です。小さなスーパーがあり、露店があり、市場があり。地元のみなさんはそこで普通に住んでます。
こういうのTVで観ると「行ってみたいな~」なんて思うんでしょうが、実際に行って帰ってくると、そんなレベルじゃ済みません。
ショックを受けます。
なぜなら知ってしまうからです。
自分がショボい街、ダサい建物に住み、クロックスを履いて近所のコンビニに行ってビニールに包まれた菓子パン買って暮らしている今この瞬間も、あの街の人々はあの素敵な街で、旅行客に「どう? この街は素晴らしいでしょ?」とか「この街に来たならあそことあそこを見て行け、絶対感動するから」などと自分たちの街を自慢しつつ、めっちゃ美味しい焼きたてのクロワッサンをほおばり、挽き立てのエスプレッソを飲み、街に響く教会の鐘の音に合わせて歌いながら(実話)、今日の美しさに感謝して暮らしているのだという、世界の真実を。

僕はこの街に8日間滞在して、ここを拠点にシチリアをちょこちょこ回りました。
とにかくどこに行っても街並みが美しく(あと食事がめちゃくちゃ美味い)、次に生まれて来る時はシチリア人を指定すると心に決めたんですが、帰国して空港から電車に乗り、自分の住む街の最寄り駅に着き、ドアがプシューと開いた瞬間。
目に飛び込んできた日本の街の姿に、僕は衝撃を受け、絶句したのです。
ひどすぎて思わず記念写真撮りましたよ。
どんな写真かって?
それは別に僕が載せなくても、皆さんもよくご存じの、僕らの家から一歩外に出たら目に飛び込んでくる、今の日本の街並みの写真ですよ。

当時の僕はまだ若く、自分の家を持つなんて全然考えてなかったですが、このシチリア旅行をきっかけに、僕は現代の日本の住宅に対して懐疑的な思いを抱くようになったと思います。
そして翌年、2012年。
ひょんなことからお仕事でブータンに行くことになったんですが、そこで僕はまた別の角度から「住宅」を考えることになります。
ブータンの住宅写真、ちょっと見てみてください。


幸せの国ブータンにももちろん貧富の差はあって、僕が訪れた村は下層の人々が暮らす村っぽかったですが、どの家もみなこのように綺麗な民族文様をあしらった伝統的な家でした。
今見ると屋根とかトタンですけど、壁にはちゃんと装飾が施されていて、雰囲気ありますよね。白壁、朱色地に極彩色の文様、そして石壁。いかにもブータンって感じです。
ちなみにブータンの家はブータン人が建てるんじゃなくて、山を越えて出稼ぎに来てるインド人の大工が建てるそうですよ。

子供たちが遊んでたので撮らせてもらいましたが、見てこれ。
見てよこの屋根と壁を。
これガラス入ってないですよ。
そしてブータンの冬は氷点下ですよ。
一体どうしてるんだっていうと、唐辛子食ってるんですよ。
家の屋根や軒先には唐辛子の束が干され、道を歩けば唐辛子を吐き捨てた真っ赤な跡があちこちに見られます。
身体があったまるから食べるんだって。
嘘みたいでしょ。
でも幸福度ナンバーワンなんです。
そして子供たちは明るく元気に育ってますよ。唐辛子食いながら。


(Hi girls, maybe now being beautiful ladies, sorry for posting your photos without your permission. If you find these photos and want to delete them, please contact me. I will do it asap.)

ブータンは子供がかわいかったなー。
ブータンの人々の顔は結構日本人に似てますが、日本の建築基準法を何一つ守っていない家で暮らしていても、こんなかわいい子供たちが育つんですよ。
ちなみに僕はブータンで高山病にかかって倒れたりやたらツメの尖った猫をあやしてたら検疫の自己申告で狂犬病の疑いをかけられて帰国後に大騒ぎになって(狂犬病発症時の致死率は100%)東京から血清を取り寄せて半年間病院通いになったりしましたが、それはまた別のお話。
予防接種マジ大事。

そしてブータンからの帰り道、山岳都市でヘトヘトになった身体をリフレッシュしようと、タイのプーケットに立ち寄りました。
その建築写真も載せときます。

一泊2000円とか3000円とかの安宿。レンガなのでこれはタイの伝統建築様式ではないと思いますが、本物のレンガだし、本物の木だし、ちゃんとしてます。

こちらは旧市街地。プーケットの建築は中国やイギリスの建築様式の影響を受けたとされています。
プーケット自身は植民地化の歴史はありませんが、東南アジアへの西洋文化の輸入、そして南下した中国人による文化の混入が、こういった街並みを作り上げたんですね。
歴史の重みを感じる良い街でした。
狂犬病もないし。

ハイ!!
ということで皆さんお待ちかね。
最後にわが日本の建築をビジュアルでご紹介します。
もうだいたい予想がついてると思いますけど。
ではどうぞ!

実際のやつ載せたら訴えられるんで、僕がPCソフトでつくったイラストですけど。
現代の一般的な建材、カラーベスト屋根とサイディング壁、断熱性能と耐震性能を上げるために小さくなったアルミサッシの窓。
これが日本の住宅の一例です。
改めてみると凄まじいギャップですね。
僕はこの瞬間、日本の95%の施主さんと95%の工務店さんを敵に回したことになりますが、いいんです。それくらいのこと言わないと日本の街並みは変わりません。
僕はこれを読んでる皆さんには残りの5%になって欲しいのです。
このイラスト見て「これはこれでモダンでスタイリッシュでかっこいい!」と思われる方がいらっしゃるんなら、それはもういわゆる音楽性の違いというやつなので、僕はもう何も言いませんが、そうでない方は一回ちゃんと考えてみて欲しい。
あなたが本当に住みたいのはこの家なのか?
あなたが35年という時間をかけて手に入れたい家は本当にこの家なのか?

さらに日本は家の仕様を建てる人が自由に決めてしまうので、こういう家の隣になんちゃってレンガの店舗が建ち、その隣に真っ黒な四角の家が建ち…と統一性もまったくありません。
そして、それを気にする人もまた、誰もいません。
僕も海外を知らなければそうだったかも知れません。
でも僕は、海外に出て学んだのです。
美しい家が統一感を持って建ち並んだ風景はそれはそれは見事なものだということを。
家を自慢し、街の美しさを自慢する住人たちが、あんなにたくさんいるのだということを。
断熱がゼロでも子供たちが笑顔で育つのだということを。
狂犬病は犬だけじゃなく猫からも伝染るのだということを。

まあそんなわけでね、このウルトラ長い記事をここまで読んでくれた皆さんには、ぜひ美しい家をつくって頂きたいと思います。
そりゃ古民家に住んでくれれば当サイトとしては嬉しいですが、新築でも美しい街並みは作ることができますよ。
美しい家をつくるためには、何も、有名なデザイナーに頼む必要はありません。
自然素材を使い、伝統的な意匠にいくらか合わせるだけでいいのです。
それにね、今ああいう家を作ってる工務店さんも、中小企業であれば、お客さんの求めるものに合わせて柔軟に作ってくれるところもあると思います。
すなわち、皆さんがああいう家を求めなければ、ああいう家は生まれないのです。

では最後に、かつて日本のどこにでもあった、世界に自慢できる日本の街並み写真をどうぞ。

どうですか。
西洋にもブータンにも東南アジアにも引けを取らない風景じゃないですか。
そう思いません?
僕らの世代がまともな選択をすれば、次の子供たちの世代に、こんな風景を復活させたり、残しておいてあげることができるんです。
施主の皆さん、勉強しましょう。
勉強して、自分の35年を捧げてもいいような素敵な家、つくりましょうね。

おわり。

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