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大室建築さんの「本当に健康にいい家」の話

今回は取材記事です。
青森県の大室建築代表、宮大工の9代目を継がれた大室さんが「最近研究していることがある」ということで、大阪に立ち寄られた際にお話を伺ってきました。
大室さんと言えばクロニカインタビューで釘の話だけでも延々と語ることのできる超マニアックな方ですが、今回のお話も「うおお、そこまで……」と思えるような内容でびびりました。

建築と医療

健康について考えているんです、と話し始められた大室さん。最近、立て続けに身の回りの人が病気で亡くなって、健康というものについて真剣に考えるようになったそうです。

「よく健康住宅っていう言葉を見かけるけど、それって住むだけで健康になるみたいなイメージですよね。でも建物ってそんなことはなくて、具体的に対策をしないといけないんです。日本人は寿命が長いけど、二人に一人が癌で、三人に一人は何かしらのアレルギーを抱えている、つまり闘病しながら生きるわけですよね。それだと長寿命でもただ苦しいだけじゃないかと。それでちょっと、本格的に、建築に携わっている方面から何か健康のためにできることは無いかと考え始めたんです」

なるほど。確かに僕も古民家に住みながら、この毎日のリラックスした環境と、ごみごみした都会のマンション暮らしでは、何かしらの心身における健康に影響があるんじゃないかと思います。実際コロナの時にマンションに住んでた友達の子供がノイローゼになっちゃったりしてました。具体的には家屋のどういう点が影響を与えていると考えられますか?

「緑が多い、窓が多い、天然素材を使っている、という古民家の環境は健康にとてもいいと思うんですが、それだけじゃなくて、影響があるのは近年になって登場した化学物質と電磁波です。古民家といっても結局リノベーションした時にコストの問題でクロス壁にしたり、利便性向上でいろんな設備や家電を入れていくと、その二点においては現代住宅のようになりますよね。でもそれがさっき言ったような病気の遠因になってるんじゃないかと思います」

化学物質も電磁波も、普段はぜんぜん意識していないんですが、時々思い出してちょっと気味悪く感じるものではありますね。確かにそういう点では、僕の古民家も現代住宅の環境とそう変わらないです。

「欧米で病院に行くと、どんな家に住んでますか、と訊かれるんです。それは病の原因の中に住宅に起因するものが何かしらあるという発想なんですよ。たとえば衛生面だったり、騒音だったり。それで現代の日本の住宅でまず考えられるのが化学物質、その次に電磁波。ただ、この二つはまだ原因としてはっきりとした化学的根拠がないという状態なんですけど、化学物質過敏症はアレルギーの一種として認められつつあります」

京都の畑工務店さんに聞いたんですけど、新築を建てたのにシックハウスで子供が息が出来なくなって、一度も住めなかったという話がインタビューにも出てきました。

「そういうこともあるでしょうね。電磁波においては電磁波過敏症というものもあります。他の先進国では電磁波の暴露値においてかなり厳しい基準を設けているんです。たとえばオーストリアは一番厳しくて、平方センチメートルあたり0.01マイクロワットなんですが、日本だとそれが1000マイクロワットです。10万倍違うんですね。向こうだと保育園の近くに携帯電話の基地局を建てられないですが、日本だと垂れ流しです」

うーん、そういうお話を聞くと、この24時間肌身離さず身につけているスマホの影響が心配になってきました…

「そうですね。よくないと思います。これは聞いた話ですが、毎回腰痛に悩んでいる人がいて、それが右側ばっかりだったんですが、右のお尻のポケットに携帯を入れるのを止めたら治ったとか。あと心臓にも影響出るって言われてますね。とにかくWi-Fiにしろ電子レンジにしろ住宅内に電波が飛び交いすぎているし、電気自体も流れすぎている。1980年代は家電製品が普及し始めた頃だと思うんですが、二階建ての木造住宅に使われる電線の長さが170~200mくらいだったんですよ。それが今では大体1km前後。つまり電線の量で5倍、分電盤の回路は4倍、コンセントの数は3倍になってる。ようするに今の木造住宅は電線にくるまれている。その上、断熱を入れて、ビニールで気密を取る。ペットボトルハウスなどとよく言われますが、化学物質と電磁波をビニールでくるんでるんですよ」

古民家の良さを活かしたリノベーション

そう言われるとめっちゃ気持ち悪いですね…笑 うちは家電は多いですけど、まあそんなにコンセント作ってないし、ビニールも気密も無いからマシなんでしょうか。

「古民家の良さっていうのはそこですよね。青森に青荷温泉「ランプの宿」っていう宿があるんですけど、そこは携帯通じないし、電気も通ってないんですよ。でもそれがすごい人気で。夜はもうランプの明かりだけなんですが、デジタルデトックスで、仕事も何からも束縛されずに、数日いるだけで心と身体がリフレッシュされるんです。やっぱりせっかく古民家だから、利便性を追求するんじゃないくてそういうところも採り入れていかないと、と思います」

そういうことはぼんやり思いつつも、なかなかそこまでは考えと実行力が及ばないですが、さすが超マニアックな大室さんですね。それってたとえば、具体的にはどういう方法がありますか?

「たとえば寝室一室だけを、まったく電気配線しない。コンセントも無くす。床下にも天井にも電線を通さない。そしてその部屋を、石膏ボードではなく土壁にして、自然素材で包み込む。そうすると寝ている間だけでもデトックスできますよね。できれば携帯電話も外の部屋に置いておいて」

おお、それは面白いな。やりたい。瞑想の部屋みたいな。僕も毎晩枕元にスマホ充電してて、なんとなくちょっと気持ち悪いんですよ。笑

「木造って実は帯電しやすくて、今の建材っていうのは静電気も帯びやすい。それでゴミを吸着して、アレルゲン物質、たとえばダニの死骸みたいなものも吸着してしまうんですが、そういうのが自然素材には起こらないんですね。なので自然素材を中心に使っていけば、化学物質などのアレルギー性のものについては対処できるのではないかと思います」

あ、そういえば僕、外に出たら静電気を感じるんですよ。さっきもコンビニとか、車とかでバチッときましたけど、よく考えたら古民家だから、触れるのが土壁とか木なんで、家の中でバチッとならないんです。

「古民家のような住宅に住み慣れている人は、他の環境がどれだけ不快な状態かというのが分かると思います」

本当ですね。僕ももうホテルなんか泊まると大変ですよ。ホテルのランクに関わらず、まず部屋に入った瞬間に気持ち悪い。なので風を通そうとして窓を開ける。窓を開けられない部屋は加湿器を借りて、加湿器がないと眠れない。とにかく早く家に帰りたくてしょうがない。笑

目に見えないものとニセモノ

「そういう目に見えないものに対するアプローチは難しくて、解剖学とかでもそうなんですけど、死んだ人間しか解剖できないんですよね。なので生きている間の身体の状態っていうのは分かりづらい。目に見えないものも、それをどうやって証明するのか、因果関係を立証するのかは難しい。でもそういう心身のことについて、住宅において一歩踏み込んでいきたいと思っています。イヤシロチとケガレチってあるんですけど、イヤシロチはいわばパワースポットのような土地で、そこに家を建てるとものが腐りにくいとか、何か良い影響のある場所。ケガレチはその逆で、植物が育ちにくかったりする。そういうことに意識があるか無いかで結構変わってくると思います。我々は代々宮大工として神事にも関わってきていますから」

先日も山の頂上に祠を建立されてましたよね。そのために登山のトレーニングを積んだとか。

「はい。なので目に見えないものに対して抵抗がないんですよ。そういうものは確かに感じますから。あと学んでいるのは活性療法で、建築とは直接関係がないんですが、たとえば過敏症で悩まれている方がもう一軒建てたり、大金をかけて大がかりなリフォームされたりするんですが、そもそもご自身の体質を変えたり、自然治癒力、抵抗力、そういった生命力を上げることによって、住宅に今ほど過剰な投資をしなくても良くなるようになるんじゃないかと思うんです。なので今後はそういう知識も学んでいきたいと考えています」

なかなかそこまで踏み込む方もいませんよね。僕はそこまでじゃないですが、新車の匂いとか、新築の接着剤の匂いが無理なんで、そういうところに気を配ってくれる工務店さんがいたらとてもありがたいと感じると思います。

「接着剤でいうと、よく『自然由来の』って書いてる建材がありますが、ああいうのは危ないんですよ。だって『由来』であって、自然物じゃないですから。ポリマーとか溶剤とかが入ってるんです。僕らが使う接着剤というのは本当に膠(にかわ。牛の皮または魚のうき袋を煮つめた汁でつくる接合剤)とか布海苔(ふのり。海藻を乾燥させてタタミ状にしたもの)とかなので、完全に自然物なんですよ」

さすが、釘一本からこだわって家づくりをされる大室さんですねえ。徹底してますよね。普通そこまでいかないですよ。そういうところは適当に流しますよね。

「今の世の中はとにかく偽物が多いんですよ。食べ物だって養殖だったり、フェイクミートだったり。コンビニのおにぎりは腐らないし、お肉には色が付いてるし。そういうものをずっと小さい頃から食べてる人が30代、40代になった時には医療がもっと発達してるでしょうけど、普通に癌が増えていって、さっき言ったように結局治療しながら生きていくことになる気がするんですよね」

食べ物でいうと僕はニワトリを飼ってたんで、平飼いの卵じゃないと買う気がしないんです。養鶏場のあの環境、前にも後ろにも動けずに首だけ出してエサを食わされているという環境がどれだけ狂ってるか、一羽一羽豊かな感情と性格を持ってるニワトリのメンタルにどれだけえげつない影響を与えてるかは飼っていた僕なら分かるんで、あんなところから生まれる卵はほんと気持ち悪いんですよ。平飼いの卵はすごく高いけど、それが買えないなら卵を食べない、というのが自然じゃないかと思います。

「そういう目に見えないものに対する警戒心、注意力は持っておいた方がいいと思います。たとえばレントゲンやMRIだって、金属を外してくださいって言われますけど、あれも強力な磁場を出すんですが、椅子が吹っ飛ぶくらいの力なんですよ。物理的にそれくらいの磁場を出す。で、それはあらゆる物質を貫通するんです。それは電磁波もWi-Fiも同じですよね。だからそういうものから守られた部屋が一室でもあればいいかなと思います。そのぶん金額は高くなったとしても、先ほどの卵の話と同じで、高くても対策して欲しい、という方もいらっしゃるかなと思います」

いやほんとにその部屋は面白いと思います。同じくクロニカのインタビューのお話で、三重県の山路工務店の小林さんがなるべく電気やガスを使わない暮らしをされてますけど、古民家を極めた人がそういう方向に進まれるのはよく分かります。

「我が家も暖房は薪ストーブですし、いずれは田んぼをやりたいと思っています。エコビレッジ的な感覚ですね」

まあでも311の原発の時に、日本が過剰な電力供給について何か意識が芽生えるかなと思ったら、結局うやむやになりましたよね。あの時に変わらなかったのは、やっぱり日本人の国民性かなと思います。自分の意思でそうしようとか、誰かがリーダーシップをとって思い切った方向に舵を取れないという。

「欧州で脱原発の風が吹いた時、当事国がそのまま原発を続けたというのはやっぱりおかしな話で、それは利権が優先されたということなんでしょうね」

目に見えないものって利用しやすいんですよね。目に見えないんだからわざわざ法律作る必要ないだろうとか、事なかれ主義で。

「でも我々はこれから、特に未来の子供たち、今の子供たちのためにもそういったことを考えていかないといけないし、考えている方々には工務店として適切な選択肢を提示できるようにならないといけないと強く思います」

 

category:プロに聞いてみた  |    |  2025.04.22

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