古民家リノベーション体験談29 なんか出た
【前回までのあらすじ】 グオオオン。バキバキバキ。
いよいよ解体が始まった自宅。
立派な入母屋の玄関が一瞬でガレキになっていきます。
もうこうなったら後には引けません。行くところまで行くしかないです。
僕は腕組みをしながら解体屋さんの仕事っぷりを眺めていました。
するとしばらくして、なんか視界が…モヤっと霞んできました。
ん?
目をこすりますが霞は消えません。
なにこれ。
顔を上げて辺りを見回した僕は言葉を失いました。なんとそれまで晴れ渡っていた世界が、一瞬にして死の灰に覆われていたのです!
「うわああああ!!」
「大原さーん、マスクした方がいいっすよー」
はい。
古民家って何でできてると思います?
木と瓦だと思うじゃないですか。
違うんです。
木と同じくらい、土が使われてます。
ということで、死の灰の正体は、土の粉塵でした。
もんのすごいですよ。粉塵。
粉塵って微粒子じゃないですか。
てことは、どこにでも入っていくし、どこまでも舞い上がるし、たぶん軍事利用したら最強兵器になるんじゃないかっていうくらい凶悪でした。
ようするにお隣さんです。
騒音とかはまあ、しょうがない。
でも粉塵となると、お隣さんの綺麗に手入れされたイングリッシュガーデンが一瞬で核戦争で人類の90%が滅んだみたいな風景になるわけです。
それは非常にまずいので、僕は解体屋さんに言って、粉塵が飛ばないように水をかけながら解体してもらうことにしました。
解体時の隣家への気配りは、今後のご近所付き合いにとっては最初の重要ポイントだと思います。
ちゃんとした工務店さんはその辺をしっかりやってくれますが、うちのように自分で見つけてきた解体屋さんなんかはあんまりそういうの気にしないし、工務店も「お前が見つけてきたんやから自分で管理しろ」という感じなので、僕は現場に立ち会い、僕が気を配ってました。
でも本当は、施主がそういうことをやって当たり前なんですよね。
工務店に丸投げして、工務店の人間がご近所にタオル配ったりしても「お前誰やねん」で終わると思うんです。
でも引っ越してきた本人がちゃんと近所を回ると、挨拶にもなるし、気持ちも伝わるってもんです。
特に古民家を購入して住む人は、その地域からすれば「余所者」になるので、そういう下手感、気配り感が大事だと思います。
さて粉塵も落ち着き、解体された玄関が姿を現しました。
思った通り、ゴジラに踏み抜かれたみたいに壊れてます。
うーん清々しい。
そこから続いて、土間内部の解体に入りました。
土間内部には床が張られて、壁が作られ、キッチンやら物置やら、いろんな小部屋が作られていたのですが、そいつらを全部取っ払って、元通りの土間に戻す作業がスタートしました。
うちの大工さんは解体もするので、「内バラシ」という手作業による内部の解体は、大工さんがやってくれました。
狭くて暗かった土間がみるみる広く、明るくなっていきます。
僕は満足げな笑みを浮かべながら、大工さんに任せて現場を離れました。
あれこれプランを悩みましたが、いざ工事が始まってみれば早いものです。目の前でどんどん進んでいく解体作業。気のいい解体屋の兄ちゃん。腕のいい大工さん。優しいご近所さん。ああ、この工事はきっと順風満帆に進んでいくに違いない。
そう確信して仕事をしていたその時です。
大工さんから着信がありました。
「もしもし」
「もしもし~何~?」
「あの、井戸が」
「え?」
「井戸が出たっす」
「は?」
「井戸っす」
…つづきます