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古民家リノベーション体験談28 解体とわたし

座敷

【前回までのあらすじ】姉さん、着工です

遂に着工に至った大原邸。
時系列を説明しておくと、古民家探しに1年ほどかけて、古民家購入後は離れに住みながらさらに1年かけて勉強してプランを考え、工務店さんが見つかり、見積をもらい、ローンを通し、そうしてやっと辿り着いた着工です。
解体屋さんの兄ちゃんのダンプが家の前に到着した時、僕はきっと胸に込み上げるものがあるだろうと思っていましたが、込み上げてきたのは万感の思いではなく胃液でした。
だってね、ダンプを通すために解体することになった玄関部分は立派な入母屋になっててね、いろんな人に「この屋根は二度と作られへん」とか「この家の玄関はこの街道の顔やからな」とか「これをつぶすなんてとんでもない!」とかね、言われまくったのですよ。

確かに立派だし、確かに潰すのは惜しい。
僕もさんざん迷いました。
でも、どう考えても邪魔なんです。
この家の玄関部分はお店をされていたのでかなり広く取られてあり、車3台分ほどのスペースがあったんですが、この玄関のせいで次の間が真っ暗になってるし、床下の通気も取れてない。
さらに道沿いギリギリまで張り出しているので、家の前に車はもちろん自転車さえ満足に停められない。
潰したら部屋は明るくなるし駐車場はできるし庭に重機入るしいいことだらけ。
それでもみんな「立派だから潰すな」という。
ぐぬぬぬ。

ところが大工さんが調べてみたら、この立派な玄関は80年前の増築部分だということが分かったのです。
いくら立派とは言え、増築は増築。
その結果、部屋が暗くなり、床下の通気が止まり、家の具合が悪くなったのでした。
ほらやっぱり余計なことしてたんじゃん!
さらにダメ押しに親方の一言。
「こんな入母屋くらい、金くれたらなんぼでも作ったるわ」
親方かっこよすぎ!
金はあげへんけど!
そんな流れで、ようやく解体する決断に至ったわけです。

家の工事やってみると分かりますが、ほんとにみんな勝手なこと言ってきます。
それは無責任な冷やかしから本気の親切心まで色々ありますが、基本的に「自分の感覚とは違う」ものだと考えた方が良いと思います。
だってそうでしょう、選ぶポイントが星の数ほどあるんですよ。
木造が好きな人、コンクリートが好きな人、デザイン重視な人と住み心地重視な人、キッチンにこだわる人とキッチンはどうでもいい人、寒いのが平気な人と大嫌いな人、大家族で住む人、お金がない人、家を自慢したい人、つつましく暮らしたい人。
1000人いれば家の好みは1000通りなのです。
すなわち家づくりというのは「恋人選び」とほぼ同じです。
その事実を踏まえると、家づくりにおける他人からのアドバイスは下記のように変換できます。

「家を建てるなら大手メーカーの方が絶対いいよ! 安心感が全然違うし、サービスの質も高いよ!」

「付き合うなら有名私立の子が絶対いいよ! 安心感が全然違うし、デートの質も高いよ!」

「俺は家を二軒建てたけどな、家は玄関が一番大事や」

「俺は嫁をもらうのは二人目やけどな、嫁はルックスが一番大事や」

いかがでしょうか。
家づくりの貴重な意見だと思っていたものが一瞬にして「知らんがな」という話題に変わるのです。
でも実際そんなもんです。
異性や家族のことはそうでもないのに、みんななぜか家のこととなるとグイグイくるんですよね。
だからそれくらいに思っといた方が精神衛生上いいですよ。

そうは言っても込み上がる胃液。
解体屋の兄ちゃんたちのトラックと、でっかいユンボが、立派な入母屋の前に次々にやってきます。
ユンボの先に鋭い爪が取り付けられるのを横目で見ながら、僕は人知れず呟きました。
「終わりのはじまりや…」

グオオオン。バキ。バキバキ。バキッ。
目の前で築80年の玄関が砂埃を立ててウェハースみたいに崩れていきます。
「この通りは○○ウォークのルートになってて、あんたの家の立派な入母屋はちょっとした観光名所にもなってるんやでぇ」と教えてくれた近所のおばちゃんの笑顔が走馬灯のように過ぎります。

グオオオン。バキバキバキ。

バキッ。

解体

つづきます。

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