僕が古民家を選ぶまで その3
【前回までのあらすじ】君はほんとにそんな家が好きなの? → ちがうかった。よつばまちがえた。
今風の家にべつに住みたいわけじゃない。
そう気付いた瞬間、不思議なものでこれまで心のどこかに潜んでいた違和感や、見て見ぬ振りをしていた不満点が噴出し、新築やーめた、となったんでした。
やっぱり僕の中で家選びを広告で決めたくない、という思いがあったんです。
広告というのは怖いものです。
僕のような広告業界にいる人間でさえ、いつの間にか洗脳されてしまいます。
僕は、家は耐震等級の数字が大きければ大きいほど良いと思っていました。
僕は、家は高気密・高断熱・超耐候のどれが欠けてもいけないと思っていました。
僕は、家は大がかりな実験を経て開発された新耐震機構が採用され、一般住宅に比べて実に15%もの節電効果のある気密性を誇り、カナダの厳しい寒さにも耐える外壁材が使われ、グッドデザイン賞グランプリを3年連続で獲得したキッチンがついている家を買わないと損をする、と思っていました。
今となっては笑い話ですが、当時は本気でそう思っていました。
今なら言えます。
土間の天井あたりから毎日謎の光が射し込んでくるけど、べつに生活に支障はないと。
30年前の安いキッチンそのまま使ってるけど、べつに不便ではないと。
強風の時はその風がそのまま家の中を吹き抜けて子供の前髪が揺れるけど、逆にちょっとおもろいと。
こんなことを、一体誰が大きな声で喋るでしょうか。
誰も喋っていません。
じゃあこれはニセの情報なんでしょうか。
いいえ。これもまた一つの真実なんです。
僕たち一家は、今の基準からは真逆の家をつくり、そこで普通に、いやむしろ快適に暮らしています。
広告は、大きな声でそれ以外の選択肢を消していきます。
できるだけ大きな声を出すために、企業は広告代理店にものすごいお金を払い続けます。
大手メーカーの坪単価は高いですが、その中にはTVCM制作費、ハイクオリティなパンフレット・チラシ・DMの制作費、大がかりなwebサイトの制作費、各家庭を回る営業部隊の人件費、「モデルハウス展示中」の看板持ってるおっさんの日当、特撮戦隊のアルバイト学生5人の日当、「どうぶつ大しゅうごう!」の企画で住宅展示場に連れてこられたヤギとフクロウとカピバラの餌代などが含まれているのです。
広告屋である僕はその構造がよーくわかります。
僕は、借金したお金でカピバラの餌代を払う気にはなれませんでした。
簡単に言うとそういうことです。
ただ、そう決めたのはいいのですが、建設業界に何のツテもない僕にとって、そういう商業主義じゃない、良心的な工務店や設計事務所を一から探すのは雲を掴むような話です。
だって見積とか見せられたって分からんのですよ。
「家は坪単価が重要です」って検索結果に出て、そのすぐ下に「家は坪単価で決めるな!」みたいな記事が並んでるわけです。
調べれば調べるほど、どこまでが広告でどこまでが真実なのか、もう誰も信用できません。
じゃあどうする?
疑心暗鬼になって日夜あれこれ調べるのに疲れ果てていた僕は、ここで極端な選択肢を思いつきました。
じゃあ、商業主義になる前に建てられた家を買って、それを直せばいいんじゃないかな。
どシンプルな結論です。
それすなわち、古民家。
今から思えばそんな風にとても消極的・消去法的な理由で古民家を選ぶに至ったわけです。
つづきます