古民家リノベーション体験談63 続々・当時の暮らし
【前回までのあらすじ】シャクシャクシャクシャク
当時の暮らしシリーズ第三弾。これを抜ければいよいよ古民家のリノベーション話に入っていくわけですが、その前にどうしても、当時の暮らしと、その時に考えていたこと、感じていたことを書いておかねばと思います。
これまで書いてきた通り、家づくりにおいて僕はかなりイレギュラーなつくり方をしてきました。
地元のゆるーい工務店さんに頼み、見積もなく、適当にお金を借り、工期も不明で、そのくせ隅々までこだわって、自分も工事に参加して、その結果いろいろ酷い目に遭う、という施主はこの国にはおそらくあまりいないでしょう。
古民家に住むと決めてからの数年間は育児もあいまってほんとに大変な日々でした。
ちょうど新築の離れができた頃でしょうか。
ふと、最後に映画を見たのっていつだっけ…? と思いました。
最後にジムでジョギングしたのはいつ?
最後に旅行をしたのは?
最後にコーヒーを飲みながら雑誌をパラパラめくっていたのはいつだっけ?
そういう日常がもう記憶にないほど遠い過去になっていたのです。
2歳の息子を嫁実家に預けて、僕は一人で自分の実家で寝起きする日々。深夜まで仕事をした帰り、がらがらの幹線道路のトンネルを走ってる時に、文字通り暗闇のトンネルを走り続けているような錯覚に陥ったこともありました。
でもね。
これって程度の差こそあれ、家族を持って、家をつくる人は、誰しも多少は経験してるんじゃないの?
その辺のおっちゃんもおばちゃんも、誰しも人の親は、こういう真夜中のトンネルを抜けてきたんじゃないのか?
そうして一人前の大人になっていったんじゃないのか?
ということにやがて気づいたわけです。
子育ては大変だ。
家づくりは大変だ。
大変なことは世の中たくさんあるのです。
昭和から平成を経て令和の時代になり、変わったなーと僕が思うのはそういう「大変さ」の有無です。
インターネットが登場してスマホが登場して情報が飛び交うようになり、人々は「情報強者」を目指しています。損をしないように、大変な思いをしないように、自分が少しでも得をするように、楽できるように、そのために日夜膨大な量の情報が飛び交い、みんなそれを捕まえることに必死になっています。
その結果「大変さ」は少なくなり、日常ははるかに便利に、快適になりました。
もちろんサービス業はこぞってお客に楽させようとします。その結果、住宅業界においても大手さんなどはアドバイザーを用意し、選択肢を少なくし、現場に近寄らせない「施主様が楽できるサービス」を全力で提供しています。
でもね。
大変なことを経験した人間は知っているのです。
その負荷こそが、人間を成長させる素晴らしい体験なのだと。
大変なことをスルーできるボタンが目の前にあったら、誰だって押しちゃいますよね。
でも大変なことを乗り越えた人に、タイムマシンがあったらスルーボタン押しますか? と訊いても、たぶん押さない方を選ぶ気がします。
僕の大変だった古民家リノベーション体験。
その体験が僕の「家」という巨大なものに対する理解力やスキルをどれほどアップさせてくれたことか!
それだけではありません。
僕はその体験のおかげで、今まで自分の人生で何の接点もなかった建設業の人々、親方や大工さんやその他職人さん、解体屋の兄ちゃんや水道屋の社長や建具屋のじいちゃんや資材屋のバイト君たちのことを知り、彼らがどんなことを考えてどんな暮らしをしているのか、どんな気持ちで仕事をして何が嫌いで毎日何を楽しみにしているのか、そんなことをどっぷり二年間、勉強させてもらったのです。
僕は工事の期間中はずっと現場にいたし、毎日一緒に休憩してたし、NHKの密着ドキュメントレベルで密着してました。
ある日、僕らが休憩してると荷物が届いて、僕がドロドロの作業服で「はーい」って受け取りに行くと、配達の兄ちゃんに困った顔で「いや、あの……この家の方はいらっしゃいますか?」って言われて職人さんたちに爆笑されたこともありました。
そんな日々で得た知識と体験。これはおそらく一生の宝です。
古民家リノベーションをこういう形でやってなかったら、ただ家が完成して、そこに住むだけで終わってたなと思うのです。
いやまあそれが普通なんですけどね。
でも結果的に僕は、素敵な家とともに、素敵な体験と、今まで知らなかった新しい世界観を手に入れることができたのです。
失うものも大きいので僕のようなスタイルは決しておすすめはしませんが、もしあなたが家づくりのどこかで失敗して、大変な思いをすることがあっても、それは決して無駄にはならないんだぜ! と僕は言いたい。
最後に、当時のFBのスクショをご紹介して終わります。
工務店から支給された弁当を現場で食べる施主の巻。
まあでもほんと終わってから言えることですけどね。
借金総額の件以外は無事に終わったのが奇跡かもねぇ。
つづきます。