林芙美子記念館に行ってきました
ということでついに行ってきましたよ林芙美子記念館!
東京に行くたびに立ち寄ろうと思いつつ、人に会うことを優先してなかなかその機会がなかった、あの林芙美子の邸宅に、今回ようやく訪れることができました。
ここ、実は知る人ぞ知る、都内のど真ん中にありながら、奇跡的に空襲から逃れた古民家の邸宅なのであります。
最近クロニカを読み始めた方はご存じないかと思いますが、わたくし実は昨年に林芙美子文学賞をいただいておりまして、さらに古民家に住んでて古い家好きなわけです。
そんな人間がこの邸宅に行ったことが無いなんてあり得ない、たとえるなら大正時代が好きでダークファンタジーのファンで実家が炭売り業の人が鬼滅読んだことないみたいな、そんな許されざる状況だったわけですよ。
てことで、行ってきました。

東京は坂が多い。そして、その坂に名前が付いているのだ。
この坂は「四の坂」。記念館は「東京都新宿区中井」にあります。
普通の都心の住宅地にいきなり現れる竹藪と瓦屋根。
どう考えても普通ではない。
しかし当時はこれが普通だったんですよね。

その坂を少し登ったところにある正門。
は、今は閉鎖されているようで、受付はもう少し坂を登ったところにあります。
それにしても坂に対して門を45°曲げてくるこのアプローチ。
格子の向こうを除いてみましたが、さらに曲げて続く小道。
こういうの憧れる……
うちが北入り玄関じゃなかったらグネグネやってみたかったなー。
こんなん客は普通に階段登るじゃないですか。ほーここが正門ね、みたいにさ。
そんで無意識に「はー」とか「立派ねえ…」とか思うじゃないですか。
それってそう思わせる設計になってるからなんですよ。
自分がまっさらなキャンバスに絵を描いた時にね、こうして45°の角度で門を設置して、そこからさらに曲げて曲げて、徐々に坂を登らせて、その間の庭や家の見え方も考慮して、立体的に造形するのってすごい難しいと思うんですよね。
こういうところがほんとに一流のプロの設計って感じ~と思っていたら、設計者はすごい人だった。

入口の前のパネル。
「芙美子は新居の建設のため、建築について勉強をし、設計者や大工を連れて京都の民家を見学に行ったり、材木を見に行くなど、その思い入れは格別でした」
だって!!
俺と一緒じゃん!!
そのあとで近代日本建築運動のリーダーのひとりでありモダニズム建築デザインと同時に和風建築の名手であったすごい有名な建築家に頼んでめっちゃ金かけた豪邸建てるところは全然共感でけへんけどさっきの一行はすごい共感できる!!
つまり「勉強」と「見学」なんですよ。
僕がずーっと言い続けてるこの二つが家づくりにおいてどれだけ大切か。
皆さんも旅先でこういう邸宅を見かけたらぜひ立ち寄ってみてください。
なお、芙美子はまたこうも言っています。
「東西南北風の吹き抜ける家と云ふのが私の家に対する最も重要な信念であった」
「私は、まづ、家を建てるについての参考書を二百冊近く求めて、およその検討をつけるやうになり、材木や瓦や、大工に就いての知識を得た」
だって!!
俺と一緒じゃん!!(二百冊以外)

間取りはこちら。
左が母屋で、右がご主人のアトリエで、当時は建築面積に制限があったので、別々に建てて、あとでこっそりつないだそうです。
だって!!
俺と一緒じゃん!!
俺も古民家と新築を別々に建ててあとでこっそりつないだんですよ!(もういい)
でもこういう造りは実はメリットの方が大きくて、部屋数のわりに家の中が暗くならないんですよね。
どうしても豪邸って暗くなるからさ。
その辺の理屈についてはこちらの過去記事をお読みください。

で、この素晴らしい縁側なんですが、すみませんこれどの場所の写真か分かんないです。
場所を確定させるために20分くらいGoogle検索で調べたんですが分からないので諦めました。
とにかく縁側です。
これは通常よりもさらに奧に一段引っ込んでますね。
本来なら竹の部分が縁側ですが、いいお宅になるとこうして縁側と広縁のダブル構造になってます。
羨ましい限り。
ご覧の通り、全体の意匠としては数寄屋造りです。

こちらはキッチン。
なんと当時最先端だった家庭用電気冷蔵庫が据え置かれています。資料によると普通の会社員が一年働いても買えなかった高級品だったそうです。
数寄屋造りと言いこの冷蔵庫と言い、カネモの臭いがプンプン漂いますが無視して続けます。

こちらは浴室。
な?
こういうのいいだろ?
となぜか僕が自慢げに胸を張ってしまいそうになる、このハーフスタイル。
この木製の浴槽も珍しいものだったそうで、芙美子の信念を感じますね。
天井も素敵!
ちなみにこの林芙美子記念館にはボランティアのガイドさんたちがいらっしゃって、歩きながら僕にいろんなことを教えてくれました。中でも84歳の林芙美子マニアのスーパーボランティアみたいな方には家のことも林芙美子の作品や文学観のこともほんとに勉強させていただいてありがたかった。
お名前聞いときゃよかった。
僕はクロニカ代表であると同時に作家でもあるので、そりゃー林芙美子の逸話に心を震わせられてほんと背筋が伸びたんですが、このブログで文学の話をしてもしょうがないのでそこは割愛いたします。
あ、でも一つだけ言っとくと、林芙美子『浮雲』はほんと面白いよ。ぜひ読んでみてくださいね。

軒が出ておる。
すっごい出ておる。
あのね、軒を出すのって、けっこう大変なんですよ。
軒出てる家はいい家だわよね。
おれも軒出したかったよ。

これが「茶の間」、おそらくメインフロアです。
このサイズ感がたまらんよね。
そして注目すべきは収納の多さ。
古民家って意外と収納が無いので、現代の我々が暮らす時にはどこかに収納を確保しないといけないんですが、芙美子はこうしてあちこちに収納をつくっています。
これがモダニズムなんだよなあ。
モダニズムというのは、あふれる物資なわけですよ。
それを全体のトーンを崩さずに上手に隠している。
かと思いきや、床の間の外側に配置された差し色としてのブルー!
くっそオシャレやな。
勉強になります。
はい、全然まだまだ写真あるので今回はここまで。
次回に続きます。