古民家リノベ失敗しても大丈夫。忘れるから。
さて今回はこれまで何度か折に触れ書いている「忘れる」という話について掘っていこうと思います。
人間は忘れる生き物です。
いくらITが発達しクラウドで膨大なアーカイブをいつでも参照できたとしても、人間はありとあらゆる情報を日々忘れていくのです。
実証しましょう。
はい問題!!!
「昨日の晩、何食べた?」
制限時間は5秒!
チッコッチッコッチッコッチッコッ、ブブー!!
…いかがでしょうか。
人間は昨日のこともすぐ忘れるんですよ。
数十年経とうもんなら、もはや自分の名前以外ほぼ忘れてるんちゃうかと思いますよ。
それが古民家リノベーションにどう関係してくるかというと。
僕ね、お風呂をつくる時に絶対に採用したいシャワーがあったんです。
それがこれ。
天井からシャワーって降ってくるやつ。
よく海外のリゾートホテルなんかについてるセレブ感100%のこのシャワーを、どうしてもお風呂に付けたくて、東京のショールームまで行ってもらってきたパンフレットを夜な夜な見返しては、デュフフフ!って夢想していました。
しかし諸事情により、諸事情というか借入金不足により、施工直前でどうしても削らないといけなくなり、泣く泣く諦めたのです。
もう涙がシャワーのように止まりませんでしたよ。
血の涙ですよ。
それから5年の歳月が流れたわけですが、僕、さっき、そのことを5年ぶりに思い出したんですよね。
あっ! なんか俺、天井にシャワーつけたいとかゆってたな… と。
めっちゃ忘れてた。ははははは。
人間そんなもんです。
人間の記憶力にはもちろん個人差はあります。
ちなみに僕は特にひどい。
友達に「お前の記憶力の無さについては一回ちゃんと考えやんとあかんな」とまで言われたほど、記憶力が弱いのです。
一体これまで何人の人に「あ、名刺は前に頂いてます」と冷やかに言われたことか。(最低)
そんな人は特にリノベーションにおいてはあんまりこだわり過ぎない方がいいと思います。
今のこだわり、5年後に全忘れやからね。
いや、正確に言うと忘れてない部分もある。あるよ。でも、当時の思いが100mn (「mn」=「ムネン」。必死でダッシュしたのに目の前でゴミ収集車が走り去った時の無念さを1mnとする)だとすれば、1年ごとに15mnずつ減っていきますね。体感上。
当時どうしても許せなかった「西側に背の高い建物と藪があって夕焼けが見れない」という不満点も、当時は100mnで憤死しそうになってましたが、今は32mnくらいですもんね。
外できれいな夕焼けを見た時に「あー…」と思うくらいで、普段は夕焼けのことなんか一切考えません。
人間そんなもんです。
つまり、「今を信じるな」ということなんですね。
そんなん言われたって、今そう思ってんだからしょうがねえじゃん!!
とお思いの方はぜひ中学2年の時の初恋を思い出してみてください。
ふわっと思い出すんじゃなくて、ちょっと本気で、当時の初恋の人の顔を、そして当時の自分の心の中をリアルに思い出してみてください。
どうでしょうか。
あなたはその人をこの世界でただ一人の運命の人だと思い、僕の物語のヒロイン、あるいは私の物語の王子様、だと思っていませんでしたか?
「永遠の愛」とか「一生」とかいうワードをどっかに書いちゃってたりしませんでしたか?
大丈夫ですか?
そう。
皆さんご存じのようにそれは「気のせい」です。
なぜなら卒業して別の高校に入ってバスケの部活で忙しくなって地区大会予選でライバル校のかわいいマネージャーに一目惚れするうちに初恋の人を忘れるからです。
すなわち今から家づくりしようとする人が、ああ、これはもう運命の出会い…! もう絶対にこのシャワーしか考えられない♡
とか思っててもそれは「気のせい」であり数年後にすっかり「忘れる」確率が高いのです。
……
いやあ、身もフタもないっすね。この話。
世の中の家づくりノウハウの99%が無意味化する恐るべき概念「気のせい」。
そんなこと言い出したら僕の人生のすべてが「気のせい」なのかも知れないし、キリがないんですけど、一つ言えるのは「無理をする時」にこの概念を思い出して欲しいなということです。
もちろん無理をした方がいい場合もたくさんあります。
でも、数年後に「何やっけ?」となる場合も同じくらいたくさんあるということです。
僕の場合で言うと、先のシャワー以外に、1分で思い出せる範囲だけでこれくらいありました。
・縁側のアルミサッシを100万かけてもどうしても替えたかったけど気付いたら忘れてました
・ベンガラのくすんだ柱の色が嫌いでもう全部洗いをかけようと思ってたけどそれは気のせいでした
・腰窓は上げ下げ窓で統一するつもりだったけどそんなこと今まですっかり忘れてました
・絶対に自分の部屋の内装は白ペンキで統一しようと思ってわざわざ塗装用の壁材を張って建具も白に統一したけど塗ること自体忘れてました
・アルミの雨戸が目に入るたびにイライラするので取り替えようと思ったけどいつの間にか慣れてました
・リシン吹き付けの壁をどれだけ時間がかかってもモルタルで塗り潰してやると心に誓ったけどそれもやっぱり気のせいでした
ぱっと思い出せる分でこんだけ。たぶん当時のメモとか見ればこの10倍はあると思います。
まあそれくらいは「忘れ」て「気のせい」にできる生き物なんですよ。人間ってやつは。
僕はよく子供の適応力がすごいってブログに書きますが、考えてみれば大人だって適応力すごいんですよ。
適応力、それはすなわち忘れる力です。
人は神から記憶する力と同時に忘れる力も与えられています。
そして古民家リノベーションにおいては、この「忘れる力」こそが、あなたの大きな不満や後悔をゆっくりと解決してくれるかも知れません。
ということで、リノベーション中に道に迷った時は、自分の「忘れる」という可能性=能力を信じてみてもいいよね、というお話でした。
おわり。