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古民家リノベーション体験談71 瓦を葺く

【前回までのあらすじ】屋根 or イタリア

屋根材は瓦に決まり!
じゃあ早速葺き替え工事だ~!
となればいいんですが、さすが建築業界、もちろんそんなわけにいきません。
ここからさらに無限の選択肢と可能性があるわけです。
えっじゃあ瓦の種類は? いぶし瓦? 釉薬瓦? 洋瓦? 形はJ形? S形? F形? あと葺き方は本葺き? 和型瓦葺? のしは積む? 何段積むの? ねえねえ?
みたいな。
僕みたいなおっさんはスマホの最新機種とそれに適用されるプランとオプションと割引の説明を受けてる最中にふっと「もう何でもいいです…」という気分になることがありますが、それと同じ状況が屋根工事においても発生するのです。
建物のことだったらまだしも、屋根ってねえ。
全く知らんわけですよ。
皆さんもそうでしょ。今自分が住んでるお家の屋根、見たことあります?
というか、考えたことあります?
ないでしょ。
でも突然、それを決めないといけないのですよ。
しかもかかるお金は数百万円。
さーどーする。

実は僕には屋根屋さんに知り合いがいて、今の工務店を選ぶ前からちょこちょこ相談していたのです。
そこでいろんな選択肢を調べて、考えて、考えて、うーん、となっていたわけですが、今の工務店の親方にそれを伝えると、「一回うちの使ってる屋根屋に会ってみてくれ」と言われました。
僕は、その屋根屋さんに出会った時のことをたぶん一生忘れないと思います。
それくらい衝撃でした。
家の前にトラックが停まり、坊主頭でいい体格をした屋根屋さんの親方が降りてきて、庭で職人と話している僕のところにやってきたんですが、その屋根屋さんの親方、いきなり僕になんて言ったと思います?
「大原さん、僕に出会えてラッキーですね」
て言わはったんですよ。
衝撃でした。
後になって、その人は全国の寺社仏閣の屋根を手がけていて、阪神淡路、東北、熊本と大規模な震災が起きるたびに引っ張りだこになるような方だと知ったんですが、そんなことを知らずとも、僕はもうその一言で「あ、この人しかない」と感じたのでした。
僕も客商売する身なのでよーく分かります。
全国の客商売してる皆さん! 「自分に出会えてラッキー」だとお客さんに面と向かって言えますか?
なかなか言えませんよね。
どんだけ仕事に自負があるねんと。
この人めっちゃカッコええやんと。
僕が年頃の独身女性なら脊髄反射で入籍を求めるレベルです。
親方の全身から溢れる「この人に任せといたら大丈夫」感。
その瞬間、屋根をどうするか問題は解決したのです。

ちなみに細かいところですが、この親方にお願いしようと思ったポイントがあと2つありました。
まず1つは、屋根材の提案の時、会話に最初から「スレート」やら「セメント瓦」やら「ガルバリウム鋼板」やらの単語が一切出てこなかったという点。
もう親方の頭の中にそういう選択肢がまったく無いんでしょうね。
そこにプライドがあるのです。
古民家には和瓦。僕は親方のそのプライドに一票入れました。

あともう1つのポイント、それは瓦屋根の好み。
瓦屋根にも色々ありまして、京都の町屋のようにシュッとした数寄屋の屋根から、この辺の南大阪の「錣(シコロ)」と呼ばれるずんぐりむっくりした屋根、そしてもうちょい下がって和歌山に入ると、台風に耐えるため逆にお寺のように反り返った屋根が増えてきます。
そんな色々な屋根の中で、僕はあんまりシコロの屋根が好きではなかったのです。
僕の住む集落のシコロの屋根は、アホみたいにのし瓦を積み重ねて、屋根も外側に膨らませて表現します。ほんとかどうか知りませんが、聞いた話、それは「ウチはこんだけ瓦を積んでも倒れへんくらいしっかり建てとるんや!(ドヤァ)」というアピールなんだそうで、なんかもうそういうのってすんごいダサいなと萎えていたのです。
が、
前回書いたように、僕は瓦の下に敷かれていた土を下ろすことにしました。
すると、瓦の葺き方が変わるので、ずんぐりむっくりなフォルム(ムクリ)を普通のまっすぐな斜面に変えないといけないと言われました。
もちろん願ったり叶ったりです。
ぜひお願いしますぅ!
と叫んだところ、屋根屋の親方が「君、そういうシュッとしたのが好きなんか」と。
ぼく、そういうシュッとしたのが好きですと。
親方、俺もそういうのが好きなんやと。
ワオ! 相思相愛!
「そういうのが好きなんやったら、そういう葺き方できるから、シュッとさせたるわ」
ヤッター!

とまあ、そんな具合にサクサク進んだんですが、ほんとに僕はこの人に出会えてラッキーだったなと思いますよ。
屋根は、家の表情を大きく左右します。
興味ない人も一度そういうことを考えながら家を観察してみてください。
家の形がどんなに格好良くても、屋根がショボいと家もショボく見えるんですよね。
今、そうして完成したカッコいい瓦屋根を見るたびに、これが正解だったと僕はしみじみと思います。

長くなりました。
屋根の話はまだまだ続きます。
次回はいよいよ着工の巻!
つづきます。

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