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古民家リノベーション体験談47 プレカットと手刻み

【前回までのあらすじ】1日で家の骨組みが完成したよ

家の形ができました。ざっくりと、わずか1日で。
素晴らしいほど短納期です。
でもそれが短納期であればあるほど、お金を払った側は複雑な気持ちになります。
施主は1000万とか2000万とかよく分からない莫大なお金を払うじゃないですか。じゃあやっぱりそれくらいすごいことをやってるんだっていう実感が欲しいですよね。
例えば大金持ちのパトロンが芸術家に「1000万払うのでワシのために作品を作ってくれたまえ」と頼むと。
芸術家が、紙になんかちゃっちゃっと描いて「できました」と。
パトロンのおっさん「えぇ…」みたいな。
分かりにくいですか。
ようするにすごいお金を払うんだから、大工さんがすごい頑張って時間かけてスペシャルな伝統技術を駆使して「遂に上棟!!」みたいなムードが僕は欲しかったわけですよ。
でもそうではありませんでした。
以前から薄々は勘付いてたんですよ。
「最近の家、なんか建つの早ない?」と。
そして自分の家を建てて初めてその理由を知ったわけです。
謎はすべて解けた!!

プレカット

そもそも、建て方の現場の音がおかしかったんですよね。
僕らは普通「家を建てる音」ってトントンカンカン、ギーコギーコ、みたいに思ってるじゃないですか。
違うんですよ。
「プシュ」
とか
「パス」
とかいう弱々しい音が鳴るだけ。
そんで気付いたら上棟までいっとるんです。
何なのよこれ!

その答えは、工法の違いでした。
古民家は「伝統構法」と呼ばれる工法で、金物も釘も使わず、大工さんの伝統技術によって柱と梁などが連結されています。パズルみたいに、お互いを切り欠いてはめ込むんですね。そういう手仕事を「手刻み」と呼びます。
大工さんは一本ずつ木のクセを読み、一番いい繋ぎ方でじっくり家を建てていく。
これが一般的に我々がイメージする「大工さんの仕事」です。

ところがどっこい今の家は「プレカット」と呼ばれる工法に変わっています。
どういうことかというと、木材はすべて工場であらかじめ製材され、プラモデルみたいに番号を振られ、現場に到着。大工さんは説明書見ながらそれを組み立てていくだけ。
なのでノミもカンナも使いません。
金物を止める「パスッ」みたいな音しかしないのです。
マニュアル通り組むだけなので頭も使わず作業が超早い。
てことで1日で骨組みができあがってしまうのです。

金物

もちろん、手刻みに比べて質は落ちます。木のクセなんか誰も見てないですからね。
ていうかそもそも「天然の木材」すら普通は使われてません。
コストを安く抑えるため「集成材」という、スライスした木を接着剤で固めて材木にしたものが使われます。
質は悪いけど、安く早くできる。
これが日本の大多数の新築住宅の姿です。

もちろんこれは、古民家再生ポータルサイト主催者としては本当に嘆かわしいことであり、こういった合理化をもたらす商業主義によって、日本の優れた技術と文化と美が失われていくのは忸怩たる思いですが、そうは言うものの「君さ、手刻みじゃなくてプレカットで家建てたら差額の300万円あげるよ」って言われたら
「ワンワン!!」
言うて尻尾振るのもまた事実。
世知辛い世の中です。
300万円のために、文化が失われていくのです。
300万円…
うぅ…
だれか……300万円……くださいワン……

見積の時、親方には「手刻みかプレカットか選べ」って言われました。
どっちでもいけるからと。
そしてその差額を聞いた僕は反射的に「プレカットにしてくれワン!」と言いました。
たぶんすごい尻尾振ってたと思います。
だから商業主義とか日本の文化とか言う資格は僕にはありません。
敗北者です。
貧しさに負けたのです。
でも最後の意地で、集成材ではなく本物の木を使うことを選びました。
僕は「新築だろうが古民家再生だろうが新建材はできるだけ使わない」というルールを課していたのですが、「プッ、プレカットだけど天然の木だもん!!」という理屈で自分の中でOKを出したのでした。
ただし「1本だけ集成材使うぞ」とのこと。
すごい太い材なので、天然の木なんか使ったらめちゃめちゃ高くなるらしいです。
もちろん「ワン!」て返事しました。

天然の木と集成材
※左が天然の木、右が集成材。

しかしあれですね、新築を建てたので余計に思いますが、古民家ってなんてゴージャスなんでしょうね。
豊かに育った大木を切り倒して、大工さんが何年もかけて作り上げた、いわば巨大な工芸品ですよ。
それがタダで手に入るこの国のアホっぷりを利用しない手は無いでしょう!
海外だったら1億とか2億とか普通に値段付きますからねー。

さて骨組みができたのはいいですが、家づくりは実はここからです。
次回は壁のことをお話します。

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