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古民家リノベーション体験談16 家の寿命とは何か

古民家の寿命

【前回までのあらすじ】水回り3点セットの配置が決まったよ

今回は真面目に話をします。
なぜかというとこれはもうきっちり話しておかないといけないという内容だからです。
それはおそらく古民家が最も誤解されてる部分。
でも「誤解だ」とか「真実を訴える」とか書くと逆にめっちゃ胡散臭い感じになるので、控えめに書きますが、

僕は古民家の真実を訴えます!!
みんな目を覚ますんだあぁ!!!
(羽交い締め)

失礼しました。
さっきたまたま見つけた「長く住む住宅として考えるなら古民家はNGだよね」みたいな誤解と偏見にまみれたブログを読んだ後だったので思わず太字になってしまいました。
いや何の話かっていうと「寿命」ですよ「寿命」。
よくマイホーム作り雑誌とかで「家の寿命は30年」みたいに言われてるでしょ。
そのせいで古民家なんかもうボロボロで朽ちかけて廃屋で傾いててそんなゴミにお金かけてもすぐ潰れる、みたいに思われてるじゃないですか。
そのブログにもそんなこと書いてましたけど。
そのお金で新築が建つんだったらみんな新築建てるに決まってるでしょ、と。

その意見に反論する前に、前提いいですか?
あのさ、

「家の寿命」

って何なん??
30年経ったらどうなんの? いきなり爆発して粉々になんの?
それとも突然屋根が崩落して生き埋めになんの?
家ってさ、簡単に言うと土台があって、柱があって、柱と柱の間に壁つくって、一番上に屋根乗せてるだけでしょ?
そのどこに寿命が来るわけ?
家の寿命が30年だと何となく思ってるそこの人、これ考えたことあります?
僕は考えましたよ。そしていろんな職人さんたちに質問しましたよ。「家の寿命ってなんなん? どういうこと?」と。
そして出た結論がこちら!!

家の寿命とは、住人が「なんか壁のクロスが汚いし、立て付けが悪くなってサッシが重いし、お風呂のコーキングがカビで黒くなってるし、トイレは古いし、最新の家に比べて寒いし、キッチンのデザインは時代遅れだし、なんか全体的にめっちゃテンション下がるからもういっそ建て替えよっかな…」と思ったその瞬間に訪れる。

そんなあほな。
そう。言葉にするとアホなんです。
考えてみてください。あなたはこれまで「家が自然に寿命を迎えた」のを見たことがあるでしょうか。
「あの建物ももうそろそろ…」とご近所さんに噂されて、夜中にサイレン鳴らして大工の軽トラが到着して、「やっぱりもうダメみたいよ」「お気の毒にねぇ…」とヒソヒソ言われてるのを見たことがあるでしょうか。
ないでしょう。
基本的に家の寿命なんざ「住む人が勝手に決める」んですよ。
だからそんなもん教育の問題なんです。
家を大事にする文化のある国は、木造だろうが何だろうが親子で家を直して住み続けます。
しかしこの国において家は「消費される商品」なので、「寿命ですね!! この機会にぜひ建て替えましょう!! 新築新築ゥ!!」という宣伝がなされます。
そしてその宣伝広告が載った雑誌をパラパラめくっている人は、家のことを親に何も教えてもらっていないので、自分で判断ができません。
「家の寿命は30年」というのは、つまりそういうことです。

また、新築したところで、現代の一般的な住宅は10年程度で何らかのメンテナンスが必要になるような素材を使うことが多いです。
現代の新築住宅において圧倒的シェアをほこる、スレートと呼ばれる屋根材も、サイディングと呼ばれる壁材も、その隙間埋めに使われるシーリング材も、クッションフロアと呼ばれる床材も、すべてセメントや樹脂などの人工物であるがゆえに、比較的早く劣化します。
それらの素材はとにかく安くて、施工が早いというメリットはあるんですが、住人のテンションが下がるのも早いです。

いやべつに今の家が悪いって言ってるんじゃないですよ。
僕も離れを普通に新築しましたから。
とにかく僕が言いたいのは、「寿命」とか言って簡単に古民家潰しちゃだめっ! メッ!!ということです。
ただそれだけです。

古民家は言うまでもなく、木と、石と、土でできています。
年数が経つにつれて変化はしますけど、なかなか劣化はしません。
前にも書いたかも知れませんが、うちね、築90年なんです。
しかも90年前に新築されたんじゃないんです。
昔は今と逆で、家は古ければ古いほど良いとされていたので、この家を建てた方は90年前に二駅離れた歴史ある宿場町で古い家を買って、それをこの場所に移築したのだそうです。
90年前に既に古民家だったんです。
てことは、単純に90×2としても180年ですよ。
すごーい。
うちの親方が言ってましたけど、木の強度って、伐採から数百年経った頃が一番強くなるんですって。
木材だけじゃないですよ。
屋根材だって90年前に葺いた瓦が一度も葺き替えられてなかったですよ。
今回のリノベーションにあたり、「そろそろ劣化してきてる」と言われたので思い切って葺き替えたんですが、これでまた90年もちますよ。

ていうか、重要文化財の築年数を考えてみてください。200年300年ざらでしょう。
兵庫県神戸市に日本最古の住宅「箱木家住宅」ってあるんですけどね。別名「箱木千年家」。ガチで室町時代の家ですよ。少なくとも築800年以上というから衝撃です。見学すると「こんな寒くて暗い家でどうやって住んでたんや…」と別の意味で衝撃を受けますが。
とにかく古民家となると30年どころじゃありません。普通に180年とか300年とか1000年とか、そういうレベルになるんです。

ということで、古民家の「残り寿命」はゼロじゃないことがお分かり頂けたでしょうか。
実際、シロアリにやられまくったり、雨漏りを数年放置した結果、柱が腐って傾いてる古民家はいくつも存在しますが、だからといってもちろん古民家全てが死にかけの廃屋だというわけではありません。
それは「日本人は空手の黒帯レベル」とか「アフリカ人は全員リズム感すごい」みたいな偏見と一緒です。

前回の水回りの話からなぜこんな話題をぶっ込んできたのかというと、それは僕のリノベーションのプランにおいて、なぜ築100年以上の古民家を残して、築30年ほどの離れを解体したのか? というお話を事前にしておきたいからです。
次回はこの流れから、古民家の「劣化」と「変化」の違いについて触れたいと思います。
「家の寿命」を考える時、実はこの要素も大きなポイントになってるんじゃないでしょうか。
つづきます。

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