古民家リノベーション体験談72 屋根工事はじまるよ~
【前回までのあらすじ】屋根屋の親方さん、あたしと結婚してください。
↑この「前回までのあらすじ」のせいで検索エンジンから来た初見の人にどれだけ速攻で「×」を押されているかと思うと胸が熱くなる今日この頃ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
今回は屋根工事のお話ですよ。
屋根屋さんが決まった、瓦にすることも決まった、とまで書きましたが、瓦の種類と葺き方も決まりました。
親方に勧められるままに決めた「和型(J形)の和型瓦葺き」という最もベタなやつです。
ベタな選択というのは、日常生活では敬遠されがちです。
たとえば同窓会の会場に「チェーンの居酒屋」という超ベタなチョイスをされると若干テンション下がりますよね。
だがしかし!
1000年以上の歴史ある古民家文化においては、ベタは悪ではなく、むしろ逆です。
古民家のデザインというものは、日本人が1000年以上の取捨選択を繰り返して辿り着いた完成形です。
進化の途中じゃないんです。もうとっくに完成形なのです。
そうして完成されたデザインは、やがてその土地の、その地域の、その民族固有の「文化」となります。
「文化」になったものは、そこで流行りすたりや消費サイクルから脱却し、その土地に生きる者のDNAに刻まれて代々受け継がれる……
はずだったんですけどねぇ。
この国ではなぜか、そうなりませんでした。
まあそれはもういいです。
でも僕は選びましたよ。
瓦屋根を。
ということでついに工事スタート!!
ひい、ふう、みい……屋根職人さんたちが6人集まって瓦を下ろしていく!!
おお!!
すごい!! 6人も!!
あなた、この意味分かりますか!!
すなわち1人あたり日当20,000円として20,000×6人=120,000円(税抜)が1日ごとに吹っ飛んでいくってことだよ!!
何日ですか!!
これ終わるの何日後ですかァァァ
すみません、ちょっと取り乱しました。
いやほんと、これだけの人が自分のためにせっせと働いてくれる、そして自分はそれを腕組んで見てる、こんな経験ができるのは、人生において家を建てる時の一度きりしかないでしょう。
僕は汗をかいて作業する職人さんたちをゆったりと眺め、アゴヒゲを触りながら、心の中で何度も「王かよ」とセルフツッコミしてました。
まあ実際は120,000円(税抜)のことで呼吸が荒くなってたので全然王じゃなかったですけど。
そんなこと言うなら自分でやればいいんですが、僕は屋根にのぼった瞬間に全身から汗が噴き出して動けなくなる難病を抱えているのでむりでした。
屋根職人さんってすごいよね。
お金はらいますわ。
さっきの写真は古い瓦と土を降ろしているところで、この写真はそのあとで大工さんが野地板(瓦の下地になる板)を張り直してるところですね。
確か、土間の部分と、座敷の上の部分は野地板がなく竹と土でできた下地層(皆さん「たけす」って呼んでました)でした。今回、土を降ろして瓦を釘留めするので、竹の部分は新たに野地板を張って、元々野地板がある部分はムクリ(外側への反り)をやめて真っ直ぐにするという作業を行いました。
1枚目の瓦を下ろす施工写真には屋根屋さん、2枚目の野地板張りの写真には大工さんが写ってます。そしてまた下地が終われば屋根屋さんにバトンタッチするんですが、このように、屋根屋さんと大工さんは密接に協力し合って工事を進めるので、前回説明したように、やっぱり普段チームを組んでる者同士でないとやりにくいんだろうなと思います。
さて、こちらは屋根裏の写真。
ブログでは初めて紹介するのかしら?
次は逆に屋根裏から屋根を見てみましょう、ということですが、その前にこの丸太の組み合わせをご覧ください。
最初見た時「何コレ」と思いました。
なんか途中でぶった切られてる…
屋根裏に一緒に登ってくれた、舞台設営の大工やってたパイセンも首をかしげて「途中で誰かが切っちゃったのかなあ」と仰ってました。
その後、親方に出会い、この写真を見せて「変なことになってる」と言ったところ「アホか」と。
これは、昔の大工さんが、めっちゃバランス取って丸太を組み合わせた技やと。
マジですかと。
まあ誰かが後で付け足した余計な細い当て木みたいなのが写ってますけど、それは置いといて、今よーく見るとなるほど、丸太で軒を支えて、それを屋根全体で押さえてるってことかな?
昔の大工さんの頭の中、どうなってんでしょうか。脱帽です。
調べてみると「桔木(はねぎ)」という、お寺なんかでやる技らしいですね。
ちなみにうちの大工さんにも確認したところ、下記のような返信が届きました。
さて、気を取り直して次。
はい。
大工経験のあるぼくのパイセンに、一緒に屋根裏に登ってもらった時の写真です。
人物に目線を入れるだけですぐ何かが写ってそうな雰囲気になる古民家写真ですが、こちらが竹の下地です。
こんな感じの竹と土だけのやつは通気性もあり吸湿効果もあり、下地としては優れているのですが、今回の葺き方では使えないため、こういうのを全部野地板に変えました。
そういうのもお金がかかってくるポイントですね。
ちなみにこの写真は僕が撮っているのですが、僕が撮っているということは、この場所に座っているということです。
足元よく見てみてください。
僕らが乗ってる梁の下に床が見えるでしょ?
それ、床じゃねえから。
厚さわずか数ミリの、ペラッペラの天井板だから。
すなわち梁から足を滑らせると即落下です。
そんな条件の中、この場所に来るまで、梁の上を3間分歩いてきたのです。
完全にサーカスの曲芸レベル。
二度とやらねぇ。
瓦を下ろし、竹の下地を撤去し、スケルトンになった土間の屋根。
屋根の構造はこうなってます。
残ったものは左右に走る垂木(たるき)と呼ばれる屋根の下地を支えるための木材と、縦方向に走る棟木(むなぎ)、母屋(もや)。
そしてその向こうは青空。
これは……空間としてめちゃくちゃカッコいい…!!
思わず職人さんたちに「屋根をどうにかこのままにしておくことはできないか」と本気で相談したんですが、大工さんに「雨に濡れますよ」と言われ、「そうか。そうやな」と諦めました。
後で床を全部めくった時にも全く同じことを感じましたが、古民家っていうのは、とにかく構造と木組が美しいんですよ。
ほんとこういうのが機能美ですよね。
表面がボロいとかいう理由で古民家を解体してしまう人も、その古民家がスケルトンになった状態を見せてあげれば、考えが変わるかも知れないのになあと思います。
構造にボロいも新しいも無いし、暗いも寒いもダサいもないですからね。
それらは全部、建物の構造が生まれたあとの話です。
屋根の話、まだまだ続きます。