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古民家リノベーション体験談3 古民家の価値

残った縁側

【前回までのあらすじ】増築 → 増築 → 増築 → どうすんねんこれ…

前回は古民家を増改築されたオーナー様方を盛大にdisってしまったので、今回は時系列進行をちょっとストップさせて、前向きな話をしようと思います。
タイトル「古民家の価値」。
2018年の僕調べによると、古民家に生まれ育った人の実に95%が古民家の価値に気付いていない、というデータがあります。
まあそうでしょう。
だって自分で建てたんならともかく、生まれた時からずっとそこにあるものなんてみんな興味ないでしょ。
人間そんなもんですよ。
僕は昔、とある海沿いの街に住んでたんですけど、そこは海岸に崖がせり出していて、その崖の上を電車が海岸線に沿って走るという、映画のようなシチュエーションでした。
電車の窓の向こうは見渡す限り大海原。よく晴れた日なんか海面がきらきら輝いて、電車内にたくさんの光が踊ります。
冬の通勤時には海から昇る朝日に染まり、帰宅時には真っ赤な夕焼けと海を眺めながら走る。
そんな夢のような電車で通勤してる地元の人、全員スマホ見てますからね。
スマホ見てない人がいると思ったら寝てますからね。
人間そんなもんですよ。

よく地方にふらっと旅行に行った時も同じ体験をしますね。
山があって、海があって、いい感じのさびれた村に辿り着いて、思いがけずうまいもん喰って、地元の温泉に入って、あ~旅行にきて良かったな~と思ってたら民宿のおばはんに「あんた、こんな何も無いとこに何しに来たん」と不思議そうに訊かれる、という体験。
これは鉄板です。
たぶんこれまでに20人以上の民宿のおばはんに訊かれてます。
こういうのって何が原因なんでしょう。
僕が思うに、それはその人の親が原因じゃないかということです。
親がちゃんと教えてないんですよ。
「この村はとても美しい場所なんよ。豊かな自然があるというのは、大切なことなんよ」みたいに。
「自分たちが生まれた時から持っているものの良さ」というのは、子供が勝手に気付くもんじゃないですよ。
親が教えるもんです。

なぜか日本という国はそういうことをしないですね。昔からそうなんでしょうか。
敗戦国ってことで自信なくしちゃったんでしょうかね。
海外って自分の街が好きだ、自分の家が好きだという人は多いですね。
その昔、僕が調子乗ってた時代にイタリアに旅行したことがあるんですが、「この街は最高だ、自慢の街だよ」みたいなことを結構みんな言ってたように記憶しています。けど日本人からはそんなセリフなかなか出てこないですね。
そういう意識が街並みの美しさに、家の美しさにそのまんま表れてるんじゃないでしょうか。

あの、突然ですけど、ちょっとイタリアの写真見てもらえますか。
僕が訪れたのはシチリアのタオルミーナってとこなんですけど。

タオルミーナ

夜のタオルミーナ

夜のタオルミーナ

ギリシャ劇場

ね。うそみたいでしょ。
ぼくも最初うそやろって思いました。
でもうそじゃなかったです。この目で見ました。
この人ら、毎日こういうとこで普通に暮らしてるんですよ。
今僕がユニクロのパジャマ着て猫背でパソコンに向かって目薬さしながらこんなブログを書いてる今この瞬間にも、シチリア人はこんな世界で、普通にめっちゃうまいパスタ食べて酒飲んで笑って街角のバイオリンの生演奏(実話)聴きながら暮らしてるんですよ。
冗談じゃないですよ。
なんで同じ時代の同じ先進国に生まれてきて、国が違うだけでこんなに差があるんだという。
四枚目のギリシャ劇場ね、紀元前からあるんです。しかも、今もそこで演劇とか上演してるんですよ。
こんな一等地、日本だったら2秒でホテルかショッピングモールになってますよね。
これ、たまたま残ったんちゃいますよ。
「お金の問題じゃない。これは残すべきだ」っていう、2000年にわたる人々の明確なジャッジが500回くらいあったんですよ。

これ書きながら思ったんですけど、ひょっとしたらこの体験が古民家暮らしを選んだ引き金になってるのかも知れません。
帰国して、日本の家々を見渡した時に、なんやこれって思いました。
シチリアの美しさに匹敵するほどのものをほんの100年前まで持っていた国が、ここまで落ちぶれるのかって。
どうして親の世代が「この縁側は美しいよね。瓦屋根が低く軒を連ねたこの通りがかっこいいよね」ってちゃんと教えてあげなかったのか。
悔やまれてなりません。

まあ「会社の昼休憩が2時間もあって、お昼は家に帰って家族と食べる」という人たちと比べてもしょうがないかも知れません。
またどこかで書くかも知れませんが、ラテン系の生き方は素晴らしいですよ。
街並みは、そこに住む人たちの生き方を表してるんです。
僕は生まれ変わったらイタリア人になることを決めています。
ケツアゴ上等です。

つづきます。

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