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古民家リノベーション体験談30 土間の中央で腕組みをする

土間解体

【前回までのあらすじ】井戸っす

玄関の解体、玄関横の応接室の解体に続き、土間の解体が始まりました。
土間、と書いていますが、実は当時の僕はそこが土間であることに気づいていませんでした。
なぜならこの物件を買った時には既に、土間の原型を留めないほどに改築されまくっていたからです。

土間というのは、現代の住宅事情から考えるとぜいたくなスペースです。
関西ではおくどさん、へっついさんと呼ばれる竃に薪をくべて煮炊きしていた90年前、畑から採れた野菜をそのまま洗えて調理することができ、薪が爆ぜても燃え移る心配もなく、煤が高い天井に登って排出される「土間」という空間は、生活の上で欠かせないものでした。
ところが現代においては、土間が必要なシーンといえば、新築祝いで訪れた友達に
「ああ、ここは土間だから土足でいいよ」
「え!このまま上がっていいの?」
「だからいいんだって、土間なんだからさ〜」
「え〜土間があるの〜ステキ〜」
などとドヤる時くらいのもんです。
すなわち竃からキッチンへと調理設備が進化するにつれて、古民家に住むオーナーさんにとっては土間が「ほぼ意味のない巨大空間」と化してしまったわけです。

さて皆さん、以前の僕の投稿を覚えているでしょうか。
少しでも広さを求めて魔改造しがちな古民家オーナーさんの話です。
そう。
少しでも広さを求める方々が、20畳オーバーの無駄なスペースをみすみす放置するわけはありません。
全力です。
全力で増改築です。
うちの土間は実に、物置、廊下、DK、洗面所、風呂という5つのエリアに分けられて部屋が作られていました。
そのせいでそこが土間であることに全然気付かなかったんですね。
土間だと気付いたのはそれらの部屋の壁を壊しまくって、天井と床を引っぺがした後でした。
なぜか天井が煤けてるんです。
それに、他の屋根裏は竹と土だったのに、土間だけ野地板が貼ってあったんです。
さらに野地板に煙突のような切り欠きがあったんです。
そのうち床からレンガの遺構も出てきました。おくどさんの残骸です。
そうか、ここは土間だったのか!

土間解体

なるほど、だからこの部屋は土間の名残でダイニングキッチンとして使われていたのか。
古い家の解体って面白いな、そこにちゃんと人々の生活の歴史が刻み込まれているんだな。
などと余裕こいてた僕に、その数日後、
「大原さん、井戸っす」
という電話がかかってきました。
井戸?
井戸なら庭にあるやん。
庭がどうかしたん?
ちょっと意味が分からなかったので、僕はとりあえず出先から現場に戻りました。
現場に着くと、大工さん、解体屋さんが腕組みをして土間の中央に立っています。「どしたん?」と近づいていった僕が目にしたものはこれでした。↓

井戸

「井戸やん」と僕は言いました。
「井戸っす」と大工さんが言いました。
「井戸やわ」と解体屋さんが言いました。
なんということでしょう。
板張りにされていたキッチンの床を剥がしてみたら、その下に井戸が掘られていたのです。
でっ、でも、とっくに枯れてるから…と言い聞かせて恐る恐る中を覗き込んでみると、もちろんキラキラ輝く井戸水がMAXです。
そのまま10秒くらい、僕と大工さんと解体屋さんは腕組みをして、キラキラ光る水面を眺めていました。

そう言えば床を剥がした時に、ひときわ強烈なカビの臭いがしたっけな。
土間の土もグズグズに湿ってて、地下水でも上がってきてるのかと不安になったっけな。
井戸を埋めることなくそのまま適当に蓋をして、その上から床板を貼って、その上に流しを置いてタイル貼って、「はい現代風キッチンのできあがり〜」と喜んだ当時の施工業者と施主に僕は聞きたい。
きみら「湿気」って知ってる? と。

つづきます

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