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古民家リノベーション体験談18 古民家の耐震性について

【2019年追記】古民家の耐震性について、めっちゃ詳しい特集記事を書きました。併せてお読みください。

【前回までのあらすじ】古民家は自然素材だらけの優しい家だよ! だから長持ちするよ!

さー遂にこの時がやってまいりました。
「耐震」です。
なぜ古民家を残して離れを解体したのか、という部分を語るにあたり、避けて通れない話題なので、僕は覚悟を決めましたよ。
長くなりますよこれ。
みなさんトイレは済ませといてくださいね。
出社前の人は上司に「すみませんブログ読むんで遅れます」ってLINE飛ばしといてください。
ではいきます。

えっと、なぜこの話題を避けたかったのかというと。
ヘタなこと言えねえからに決まってんじゃねぇか!!
というのはありますが、まずですね、
本当にいろんな考え方がある、
という点と、
それらの方法論が実証・確立されてない、
という点と、
確立されてたとしても結果なんか保証できない、
という点です。

だってほら、モロに人命に関わる話ですからね。
僕だってオッサンだから地震の怖さは知ってますよ。
これ言うと完全に僕が40歳前後だってバレるから言えないですけど、阪神大震災の時、学校行くのに潰れた家の屋根の上を歩きましたからね。
通学の駅のホームから空を見上げると、思いっきりこっちに覆い被さるようにビルが傾いてて、その下で電車待ってましたから。
学校で「生きてたん!」て抱き合って泣いてる女子とか見てますから。
だからそこは信用して頂きたいんです。
オシャレだとか癒しとか、そんなイメージだけで古民家選んでないですよ。
自分なりにめっちゃ調べましたよ。
これはもう結論ぽくなりますが、そんな人間が、家族で古民家に住んでるという事実で、大体のことは伝わるかと思います。

では本題。
一般常識的に、古民家の耐震性は、ゼロです。
耐震診断したらそうなります。
それは事実。
で、
古民家は地震にめっちゃ弱いのか?
と聞かれれば、
弱くないです。
と僕は答えます。
この辺にカラクリがあります。

まず、地震発生時に建物が倒壊しないようにする方法として「耐震」という考え方がありますが、これは実はいろんな考え方の一つであり、絶対的指標ではありません。
「耐震」の他に「免震」「制震」ってのがあるんですね。
地震力に対して耐えるのか、ごまかすのか、制する(吸収する)のか、の違いです。
高層ビルなんかは制震ですね。
一般住宅は耐震です。
これは建築基準法でしっかり決まっています。
法律として「新築するんだったら地震に耐えられる家を建てろ」という風になっているのです。
そりゃそうやん。
と思うでしょ?
でも考えてみてください。
たとえば築200年の古民家が建てられた当時。文政元年。
文政元年には「文政小判」が発行されています。
小判ですよ小判。
つまり全員チョンマゲです。
切腹とか辻斬りとか絶対普通にやってます。
小判、チョンマゲ、切腹的な世界の住宅が、構造計算され耐震基準を満たしてるでしょうか。
もちろんそんなわけはありません。
「タイシン」などと言うと地方の珍しい郷土料理だと勘違いされるレベルです。
では、当時の家が地震のたびに全壊していたのかというと、そうじゃないことは皆さんご承知のはず。
ちゃんと古民家は残ってるし、寺社仏閣などの重要文化財も各地で残りまくっています。

この矛盾、ちょっと考えれば分かると思うんですけど、なぜか一般的には「古民家は地震に超弱い」というイメージが根強い。
なぜか。
その大きな原因となったのが阪神淡路大震災です。
あの時、倒壊した建物の多くが「瓦屋根の日本家屋」だという報道がなされ、あ、古民家ダメじゃん、と全国民が思いました。
ところが事実は異なります。

古民家がダメだったんじゃなくて、あの当時、最も被害が大きく、最も報道された長田区には、戦後の住宅不足を解消するために突貫工事で建てられた長屋群がたくさんありました。
さらにその後のメンテナンス状態も悪く、地震より前に「倒壊するんじゃないか」と言われていたという話もどこかで読みました。
おまけに住宅密集地であったことで、倒壊よりも火災の延焼で大きな被害が出ました。
そういう色々な要素が重なった結果なんです。
ところが、
メディアはそういうことは報道してくれません。
むしろ「建物がすげぇ倒壊してるおいしい絵」をこぞって報道するわけです。
古民家って、地震の際に重さを逃がすために瓦が落ちる仕掛けになってるから、派手なんですよ。
最近の地震報道でもよくありますよ。めっちゃ土ぼこり立てて道路に瓦が散乱してるのを写して「ご覧下さい、このように瓦が無残に飛び散っています…!!」みたいなことをね、いまだによくやってます。
古民家の仕掛けを知ってるうちの大工さんも屋根屋さんも報道に怒ってますよ。
でも当時の報道を見た人は、

「長田区にあった状態の悪い長屋群が倒壊・延焼した」

ではなく、

「古民家が地震でつぶれた」

という認識になってしまった、という話です。

地震・雷・火事・親父と言われるように、木造家屋が中心の日本では、古来より地震と火事による家屋の被害が多く発生しています。
なので日本における家というのは「代々住み継ぐ」というより、「燃えたら/壊れたら建て直す」みたいなノリでした。
むしろ火事の延焼を防ぐ方法として「壊す」を選択する文化です。
その前提で作られた古民家は移築・再築にも向いているので、材料の使い回しも多い。基礎がないから曳き家もできるし、傾いたら引っ張ったり押したりして直す。
ようするに良い意味で適当なんですよ。
完成品を必死に守る、という感じじゃないんです。
それが地震大国・日本に住む人々が生み出した住宅のスタイルでした。

自然に抵抗するのではなく、自然とうまく付き合っていく。こういった考え方は、自然を自然のまま取り込む日本庭園や、前に書きましたが暗さの中に美しさを見出す「陰影礼賛」な感覚など、日本文化の至るところで見受けられます。
この感覚はもちろん「地震」に対しても適用され、「地震に耐える」のではなく「地震をごまかす」という方法論になります。
それがすなわち、伝統家屋が採用した「免震」という考え方なのでした。

そう。
古民家は「耐震構造」じゃないんです。
「免震構造」なんです。
だから「耐震診断」をすると0点になるんです。
アホみたいな話です。
でも、それを誰も「アホちゃう?」とは言いません。
むしろ「これは危険です! 今すぐ耐震化のお見積もりを!」と叫ぶ声はよく聞こえてきます。
それだけならまだいいですが、本気でそう思ってる施工側と施主が、すごいお金をかけて古民家をガッチガチに固めて耐震化しまくってサイボーグみたいな家に改造している例がめちゃくちゃたくさんあります。
僕の場合も、誰かに丸投げしていたらそんな家になってたと思います。

ただ難しいのは、実際に地震が発生した時に、ガッチガチに固めたサイボーグの方が被害が少ないという可能性ももちろんあるということです。
なので色々無責任に断言しがちな僕も、この問題に関しては歯切れの悪いコメントになります。
これはもはや宗教です。
僕は、ガッチガチに壁だらけにしたせいで縁側も座敷も死んだ古民家は、もう古民家ではないと感じます。
それよりも、束石、貫、ほぞ組みによって地震力をごまかし、複雑な木組みによる総持ちで全壊を避け、「家は歪むが生存スペースは生まれる」という方法を選択したご先祖さんの考え方に賛同しようと思います。
「安全」にパラメータを全振りするのではなく、ある程度安全で、ある程度は快適で、そして何より、美しい家に住みたい。
悩みまくった結果、僕はこういう考え方に至りました。

ちなみにうちの瓦を葺いてくれた屋根屋さんは寺社仏閣をガンガンやってらっしゃる実力派で、阪神淡路はもちろん、東北の時も熊本の時も現地に修復で呼ばれて、その震災の現場を見てきた人なんですが、その親方いわく「古民家やから潰れてるってことは無かったなぁ。その家のバランスとか、状態とかの方が大きいんちゃうか?」だそうです。

さてここでハーフタイムですが、皆さんいかがでしょうか。
三行を超えると「長すぎ」とコメントに書かれる殺伐としたネット社会で、こんなクソ真面目な長文を読んで頂けているのでしょうか。
これをお読みの女性の皆さんは「へーそうなんだ、すごいね」と言いながら指で髪先をくるくるしてないでしょうか。
不安でいっぱいですが、書くべきこともいっぱいなので、もう少しおつきあいください。

つづきます。

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