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古民家リノベーション体験談32 家の中をダンプが走った

【前回までのあらすじ】シロアリさんこんにちわ

皆さまおはようございます。
今回のタイトルですが、「妹が呪文を使えた」
みたいなネタ臭い見出しですみません。
でも実話なんです。

玄関をぶっ壊し、土間にあった構造物を全部撤去して、空っぽになった土間空間。
実は「土間を元通りにする」というのは、間取りプランだけの問題ではなく、離れの解体の費用に関する部分でもありました。
何のことか分からないと思いますので図示しますね。

ダンプ通路

はい。
古民家物件によくあることですが、古民家が建てられた100年前に車なんかないので、家の周りの道が狭いのです。
うちはまだ表通りがあったので良かったですが、それでも車で裏に回る手段がない。
ということで、赤枠で囲った離れを解体する際、重機が入らない。
すなわち人力。
すなわち人件費。
すなわち高額。
つまりそういうことです。
このまま解体したら通常の1.5倍くらいお金がかかりそうなことが分かったので、どうにかできないかと相談した結果、解体屋さんと親方から「土間から通せるやろ」というアグレッシブな意見が出ました。
「この柱は抜ける」「壁もいける」とか勝手に話を進めてる二人を眺めながら僕は「あれっ?」と思いました。
家の中ってダンプ走れるんやっけ?

そうこうしているうちに柱が抜かれ、壁が抜かれました。
玄関も既に抜かれているので、玄関~土間が立派なトンネル状態になりました。
開口部のサイズはダンプに完璧フィット。ここにダンプを通してくださいと言わんばかりの穴です。
じっと見ていると、もはやまるでダンプを通すためだけに建てられた家のようです。

当時、僕たち一家は解体直前まで離れに住んでいたので、長男は毎日工事を楽しみにしていました。
彼はトラックやダンプカーが大好きなのです。
僕は長男に言いました。
「明日、ダンプカーがやって来るぞ」
「わーい!やったあ!」
彼はまだ本物のダンプカーを見たことがありません。その日はとても喜んで眠りにつきました。
そして翌日。

ドルドルドルドルドルドルドル…
母屋の部屋にダンプカーを見に来た長男の、目と鼻の先すれすれの距離で、異様な音を立てながらダンプカーが通り過ぎていきます。
飛び跳ねて喜ぶはずの長男はなぜか真顔で固まっています。
彼のサラサラの前髪が激しい排気ガスにひるがえります。
皆さん、家の中で3tダンプをゼロ距離で見たことはあるでしょうか。
ドルドルドルドル…
僕はどんどん握る力が強くなる長男の手を握り返しながら、「家の中にダンプ入ったらこんな音鳴るんや」と人ごとのように思いました。
ダンプはゆっくりと家を通り抜け、庭に出ます。
つづいてユンボも通っていきます。
ドルドルドルドル…
その日、長男の笑顔が戻ることはありませんでした。
ごめん長男。
お父ちゃん、お金めっちゃ浮いたわ。

さてこの話のポイントは、ダンプでも長男でもなく、「柱を抜いた」というところです。
柱って抜けるのね!
とお思いの方、それは半分正解で半分間違いです。
以前にも書きましたが、僕がこの親方にリノベーション工事を依頼したきっかけというのが「柱の選別が一瞬でできる」というスキルでした。
親方は柱を見た瞬間、そこにどんな荷重がどれくらいかかっているかが分かります。
見えない部分でも構造から考えて判断します。
古民家の場合、現在の在来工法とは違いもっと複雑な組み方をしているので、伝統構法を学んだ大工さんでないとそういうところが判断できないのです。
大がかりなリノベーション工事において、柱の撤去のジャッジはほぼ発生します。
これが、古民家のことを知ってる大工さんがいる業者に頼むべし、という理由の一つ。
一級建築士さんでも大手メーカーでも、知ってる人は知ってるし、知らない人は全く知りません。そして恐ろしいのは、業者によっては知らないままに工事を請け負うことも充分あるということ。
耐久性・免震性が落ちたことなんか素人が見ても分からんので、クレームにもならず、なんちゃって古民家再生がたくさん発生しています。
「古民家リフォームやってます」だけで判断するのは危険なのです。

ということで古民家再生の業者選定の際は、坪単価やデザインだけではなく、その業者さんが構造のことも含めた提案ができるか、判断にちゃんとした根拠はあるか、そんなところもチェックするとよろしいかと思います。
レッツセルフディフェンス!

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