古民家リノベーション体験談96 家から玄関が消えた日
【前回までのあらすじ】廊下だけに!!
渡り廊下が完成し、ついに母屋と離れがドッキングしました。
これで雨に濡れずにトイレに行ける!
うぉぉ…最高だ!
と喜びいっぱいの施主。
しかしこのブログを読んでこられた方々はお気づきの通り、それはすなわち「玄関の消失」が決定した瞬間でもありました。
当時の僕は渡り廊下の喜びに震えると同時に、玄関がないことへの不安にも震えており、毎日何かしらプルプル震えていたのです。
今回はそんな「玄関のない生活」についてお送りしたいと思います。
前にも書きましたが、まず皆さんがそこにあって当たり前だと思っているものがなくなった時のショックを想像してみてください。
たとえば家に帰ったらトイレの便器が無くなっててなんか床に穴が空いてるだけになってたら「えっ?」って思いませんか?
駐車場を見たらピカピカの愛車が消えてて代わりにピカピカのトミカが置かれてたら「えっ?」って思いませんか?
まさに僕が感じたのはその「えっ?」という感じです。
えっ? どうすんのこれ? と。
新築の悩み相談サイトなんか見ると「玄関のシュークローゼットが思ったより狭い」とか「玄関ドアのグレードを下げて後悔してます」とか色々書いてますが「玄関が無くて困ってます」という人は一人もいません。
この21世紀にそんなことってあるの? と僕は思いました。
僕は皆さんにお伝えしたい。
そんなこと、ありました。
これは引き渡し直前の写真です。
工事関係者はみんなこれを見て「いやーいい仕事した」とか「やっと完成したなあ」とか言ってます。
いや待てと。
なんかおかしくないですかと。
僕の目には家になんか大きな穴が空いてるように見えるんですが…
このままではあまりにもオープンすぎるということで、とりあえずホームセンターで木を買ってきて牛小屋みたいな柵をつけてみました。
柵にはちゃんと南京錠もつけましたよ。
でも下の隙間からいくらでも入れるんです。
結局この牛小屋みたいな柵のまま一年間暮らしたわけですが、毎日きっちり南京錠に鍵をかけながら、毎日きっちり南京錠に鍵をかける意味があるのかずっと自問自答し続けていました。
別角度からもう一枚。
毎日僕の家の前を行き交う村の皆さんは、僕がどんなふうに古民家をリノベーションするのか興味津々のようでした。
実際、親方も「みんなにこの家のことをよく聞かれるんや」と言ってました。
村の皆さんはどんなお気持ちだったでしょう。
すぐに玄関が造られると思っていたら、一週間経ち、二週間経ち、一ヶ月経っても工事が始まらず、三ヶ月経っても工事が始まらず、半年、一年経ってもそのままで暮らしている、家の主のことをどう思っていたでしょう。
きっと一ヶ月ほど経ったあたりで「何かおかしい」と勘付かれていたと思います。
よく見ればこの側面をボコボコに当てた車も普通ではありません(当てたの嫁です)。
でもほら、長屋門とかあるじゃないですか。扉開けっぱなしの。
皆さん、なんかああいう感じに「門」ぽく解釈してくれないかなーと。いやこれ玄関じゃなくて門なんですよ~と。奧に母屋と玄関があるんですよ~みたいに誤魔化せねぇかなと。
思ってたんですが。
そのうちお正月がきて。
正月の飾りを飾ることになり…
ここが玄関だと速攻でバレました。
まあ世間体はもういいんですよ。
どうせもうボロボロなので。
問題は実際の僕らの生活なんですが、乳飲み子を抱え、この清々しいほどセキュリティゼロの暮らし。
断熱がどうとか、寒さ対策がどうとか、そういう議論がすべて吹っ飛ぶこの大穴。
こんな家でまともに暮らせたのか? というと、これがまた、慣れるんですよねぇ。
さんざんこのブログでも書いてますが、人間は慣れる生き物です。
まさか玄関がない生活にまで慣れるとは自分でも思ってませんでしたけどね。
でも慣れました。
まじです。
嘘だと思う人は、今から試しにご自身の家の玄関を破壊してみてください。
きっとあなたの配偶者は「信じられない!!」とか「これじゃ生活できない!!」とか「今すぐ直さないと別れる!!」とかワーワー言うと思いますが、数ヶ月経てば「ただいま~」とか言って何の違和感もなく部屋の窓から出入りするようになると思います。
明らかに家の中に隙間風が吹いていても「う~今日はさぶいね~」くらいで済ませると思います。
人間まじでそれくらいの適応力はあるんです。
うちは玄関の代わりに土間に続く引き戸を一応施錠できるようにしてましたが、それでも最初は僕も誰かが入ってきたらどうしようとか、夜に物音がしたらどうしようとか、ビクビクしながら暮らしていました。
ところが一ヶ月経ち、二ヶ月経った頃、「意外に誰も入って来んな…」と気付くようになり、
さらに三ヶ月、四ヶ月経つ頃には「どうせ誰も入って来ないっしょ」みたいな感じに仕上がっていったのでした。
この村の人々は玄関の鍵をかけないことが多いそうですが、なんかそんな気持ちが分かる気がしました。
もちろん近所に泥棒が入ったとか、強盗とか、物騒な事件もありますので用心するに越したことは無いですが、なんとなく勝手なイメージで「怖い」と思ってたことが、実際に身を晒すことによってイメージが払拭され、等身大の怖さを理解できたというか…
たとえばアシナガバチをやみくもに怖がるのではなく、適切に怖がれるようになったというか…
この感じ伝わりますかね?
ようするに「玄関」はあった方が絶対いいけど、無けりゃ無いで案外いける、ということを体感として感じることができたんでした。
これはこれで、「家」というものについての得がたい経験だったように思います。
そんなノー玄関ライフ、セキュリティの面以外にもあと一つ問題がありまして。
表札と郵便受けがつけられないということです。
知ってました?
表札と郵便受けをつけるために、「壁」がいるんですって!
びっくり!
もちろん我が家には壁どころか玄関がありません。
しょうがないので地面に直置きしてました。
さっきの写真にも実は写ってましたがここです。
この郵便受けに僕の苗字をマジックで書いて貼ってました。
拡大
これは今流行りの「置き配」というやつですね。(ちがう)
郵便配達員の方はどんな気持ちでここに郵便物を入れていたのでしょうか。
もうセキュリティどころか「自由にお持ち帰りください」のレベルです。
でもさっきの話と一緒で、案外、だれもお持ち帰りにならないんですよね。
「雨に弱い」「雑草が伸びてくると見つけにくくなる」などの弱点はありましたが、結局一年間、普通にこのまま郵便受け兼表札として機能してました。
ということで、これで第一期工事のすべてが終わりました。
次回は第一期の総論をやりたいと思います。