古民家リノベーション体験談34 離れの解体
【前回までのあらすじ】庭を更地にしてこれまでの徳がすべて失われた
庭を更地にすると共に、並行して離れの解体がはじまりました。
まずは屋根を人力で解体していきます。
解体屋さんかっこいー。
「かっこいいから写真撮らして」って言ったらものすごい照れてました。
ちなみにこの瞬間まで、うちのご近所さんたちは母屋を解体するのだと思っていたようです。
この辺の人たちは元々こういう家に住んでいる方々ばかりなので、古民家=ボロ家だと思っている場合が多く、解体工事が始まった時、当然ながら築90年の母屋をつぶすだろうと。
ところが解体屋さんがおもむろに築30年の離れを壊し始めたのでさあ大変。
工事の最中、いろんな人に声をかけられました。
何人かには「なぜ離れを潰すのか」と聞かれました。
僕は「母屋の方が好きだから。あと安全だから」と答えました。
皆さん不思議そうな顔をしていました。
たぶん全員が「こいつ頭おかしい」と思っていたと思います。
繰り返しますが、古民家に生まれ育った人が、自力でその価値を見出すのは難しいと思います。
生まれつきの環境は、なかなか客観視できるものではありません。
タイに生まれたタイ人が「トムヤムクン辛すぎひん?」と思うでしょうか。
流氷のホッキョクグマが「なんかここ寒ない?」と思うでしょうか。
つまりそういうことです。
分からなくて当然なんです。
古民家に生まれ、古民家がただのボロい家だと思っている方々に、その建物の素晴らしさに気付いてもらいたい。
それがクロニカの目的の一つでもあります。
さて、ここでまた「耐震性」のお話をさせて頂きます。
いやちょっと過去記事読み返してたら、「古民家は地震に弱くない」ってことは力説したものの、「築30年の離れの耐震性が不安」ということは書いてなかったので、読者の方々はなぜ離れを壊してしまったのか、イマイチ理解できなかったのではないかと思ったのです。
いつも説明不足でごめんね。テヘペロ。
まあ離れが不要だということは過去に色々書きました。増築なので庭が暗くなってる。床下の通気が止まってる。方角が悪くて日当たりゼロで寒い。ていうかでかすぎ。新建材バリバリの外内装が好みではない。などなど。
実はそこにもう一つ、「地震に弱そう」という要素があったのです。
離れは約30年前に建てられた、そんなに古くない建物です。
古民家と違い、建築基準法の新基準に則った、基礎のある「耐震構造」です。
ところが壁をめくってみると「土壁」だったんですね。
あんまり筋交いも入ってないと。
さらに二階建てで、頭にはでっかい梁と重い土と瓦が乗ってると。
うーん。
構造計算の専門家に聞いたところ、基本的に、地震に対しては二階建てよりも平屋の方が圧倒的に強いそうです。
さらに土壁と筋交いでは、剛性の種類が違います。
建築基準法施行後のこの家にはコンクリの基礎があります。ということは、柱を基礎と連結させ、筋交いで地震に耐える構造なんですが、どうも土壁が多く、筋交いが少ないように見える。
しかも二階建てで、太い梁と土と瓦が頭に乗ってると。
これはちょうど「西洋由来の耐震構造の住宅」と「日本の免震構造の伝統建築物」のアンラッキーな出会いではないかと僕は思いました。
実際、当時はこういう建物が多かったはずです。
敗戦後、伝統建築をフル無視して西洋型の建築基準法が策定された一方で、伝統建築に親しんでいた消費者の要望が混ぜ合わさった結果、耐震性能に関しては中途半端な建物が大量に生まれたのではないかと。
これはあくまで僕の考えです。
他にいろんな意見や僕の知らない事実があるかもしれません。
もちろん僕から見て不安な造りでも、この離れが1981年以降の新耐震基準を最低限クリアしていることは事実なんだと思います。
でも僕は、そういう考えで、離れの解体を決めたのでした。
とはいうものの…
前オーナーが暮らした思い出のある築30年の家を潰すという決断は、僕も非常に気が引けました。
前回の庭も同じです。樹齢100年の木を伐採したり、「これは絶対残しておくべき」と言われた豪華な入母屋の玄関を潰したり…
これまで生きてきてそんな大きな決断をしたことのある人がどれくらいいるでしょうか。
近所のスーパーで普通のコロッケか黒毛和牛コロッケか迷って売り場を往復するようなちっさい人間が、ある日突然、「あの家を潰せ~!」とか「この木を切れ~!ゲハハハハ」とか言うキャラになるわけです。
しかもその命令に粛々とコワモテの職人さんたちが従うんです。
なんかもうアラブの石油王にでもなったような錯覚を起こしますが、リノベーションというのはそういうものです。ある日突然、自分よりはるかに大きいものを、殺したり活かしたりしなくてはいけないのです。
でも安心してください。
「施主ゾーン」に入った人間にはそれが可能となります。
僕もそうでした。
施主ゾーンに入ってからは、もう何かに遠慮したり、誰かの意見に流されたりせず、自分の信じた道をひたすらゴーイングマイウェイでした。
僕はその点では、全く後悔していません。
その証拠といっては何ですが、アフター写真を最後にご紹介します。
壁がぶち抜かれてダンプが通り抜けた土間の、約2年後の姿です。
ビフォー
アフター
ワーオ。
リノベーションってすごいねえ。
これがゴーイングマイウェイの成果です。
現在リノベ工事されてて不安にかられてる皆さん、自分の信じた道を行けばきっと大丈夫ですよ。
何とかなりますって。
予算以外は(オチ)。