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古民家リノベーション体験談113 スチールサッシに憧れて

【前回までのあらすじ】古民家に住むと子供がねじを「ビス」と呼ぶようになります

今回はいよいよ土間編(まだやってたんかい)の最終章、スチールサッシについて解説します。
タイトルの通り、私、スチールサッシに憧れてました。
スチールサッシの何がいいかってね、
まずスチールサッシは重い。
断熱性能もゼロ。
隙間もある。
さらに錆びる。
そしてめっちゃカッコいい。
ああ、最高だ……(変態)

たとえば成績はそこそこ優秀でスポーツも人並みで流行りの映画を観るのが好きで容姿も普通で何ひとつ問題がない優等生の異性より、だらしなくておっちょこちょいでバカっぽくて実はオタクな趣味があって変わり者だから恋人もいなくてクラスでも浮いてて、でもなぜか気付けば私、彼を目で追ってる……これって……恋!?
みたいな方が魅力的じゃないですか。
実際スチールサッシは魅力的なのです。
ダメなところはたくさんありますが、なんとも言えずカッコいいんです。気付けば目で追っちゃうんです。

スチールサッシイメージ

この21世紀、スチールサッシは誰も使わないので製品として存在しません。
スチールサッシを使おうと思ったらオーダーメイドです。
オーダーってことは自由にデザインできるということなので、じゃあここをこんな風にしてこんなんにしちゃう~! と自由なお絵かきで描いたのが上図。
この特注サッシは先日の記事でもご紹介しました、泣く子も黙る大阪の鉄作家・ボウルポンドの上田さんにお願いしました。
ちなみに上田さんは鉄をメインにシャレオツなサッシや什器や表札やインターフォンカバーなどを作られている素晴らしい作家さんですが、皆さん上田さんに何か依頼する際は「クロニカを見た」と一言言ってもらえれば僕が上田さんに恩を売れて次に何か頼む時に値切りやすいのでよろしくお願いしますね。
で、
そんな上田さんに頼めば僕の右脳デザインが現実のものになるに違いない! と思ったんですが、現実は自由なお絵かきがそのまま具現化されるなんてことはなく、これムリっす、と言われました。
なんでも、室内だったらいいんですが、今回は屋外なので、枠や格子を極端に細くすると真夏の熱とかでぐにゃぐにゃになるそうです。
あとガラスを挟み込むので「折れ」の工程があって、細すぎると枠が折れないと。
めっちゃ現実的な話にしゅんとなる文系の施主。
大工さんもそうですが、こういう施主の夢が広がりまくったスケッチを現実に落とし込んでいく職人さんって大変やね。

ということで上田さんとあーだこーだやった結果、デザインしたのがこちら。
理想よりも300%ほど太ましくなりましたが、土間の力強い梁や垂木に対しては、むしろこれくらいの太ましさがちょうど良いよね! と今では思います。

それでこれをいよいよオーダーする段階になったんですが、もちろん僕にはお金が無いので、上田さんに「ACAP (As Cheap As Possible / 訳:できるだけ安く)」とお願いしたところ、「JJY (Jaa Jibunde Yare / 訳:じゃあ自分でやれ)」と言われたので、工場にお邪魔して、スチールの表面に付着した油を「アセトン」という有機溶剤で洗浄するところからお手伝いしましたよ!

工場

ゴム手袋をつけて長靴を履き、なんか変な匂いのする液体でスチールサッシを洗いながら、僕施主様やのになんでまたこんなことになってるんかしらと考えてました。
母屋の工事の時にも大工さんにノミ握らされたりバケツリレーさせられたりしたんですけど。
僕もうそういう星回りなんですか?
前世でなんか悪いことしましたか?
アセトンの後はペンキを塗る工程だったのですが、そんなことを考えれば考えるほど腹が立ってきたので、黒ペンキをちょっと多めに工場の床にこぼしておきました。

そうしてやっとスチールサッシの枠が完成したのですが、次にここにガラスをはめ込まないといけません。
上田さんから「GJY? (Glass-mo Jubun-de Yaru? / 訳:ガラスも自分でやる?)」と聞かれたので、思わず「YNY (Yasukunarunnyattara Nandemoyattaru Y / 訳:安くなるんやったら何でもやったるわい)」と即答してしまい、結果、スチールサッシが納品されてから大工さん二人に泣きついて三人でガラスを入れました。
分厚いガラスなんで大変だったですよ。
しかも三人ともそんな経験ないし。
もうほんま適当。
ちなみにその時の動画がこれです。ガラス張りに早々に飽きた僕がその時かけていた南米のレコードのおかげですごい優雅なワンシーンになっています。

そんないろんな苦難を乗り越えて遂に完成したスチールサッシがこちら!!
オシャレサッシのはずなのに手作り感が満載!!

スチールサッシ
スチールサッシ
スチールサッシ

いやーすばらしい。ファンタスティック。
これで土間の印象がバチッと決まりました。
この引き込みできるドアっていうのも欲しかったんですよね。
僕が思うに、古民家の一番いいところっていうか僕が一番好きなところは、中と外が曖昧なところです。
軒の深い縁側、壁がなくて窓だらけの構造、古民家は中と外を明確に区別する西洋の建物とは違い、内外が連続的につながっている。てことは、こういう引き込みドアも相性がいいのではないか。
そう思ってつくってみたんですが、まさにその通りでしたね。
理屈で説明しにくいですが、土間を土足で歩き、そのまま外に出る、これ、めっちゃ気持ちいいです。

スチールサッシ

上部はこんな感じで45°くらい開きます。
この設計も上田さんがウンウン唸りながらやってくれました。
他にもこのクソ重いドアにどんなコマを付ければいいか、レールはどうするかなど、多岐にわたってアイデアを考えてくれたのです。
ありがとう上田さん。
遅くなっちゃったけど、今度こぼしたペンキ拭きに行きますね。

以上、今回はスチールサッシにまつわるお話でした。
3tダンプを通すために壁をぶち抜いた時は、まさかその穴がこんな仕上がりになるとは夢にも思ってませんでしたよ。
災い転じてなんとやらですね。
おわり。

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