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茅葺き職人への道を歩みかけた話

あぶなかった。
あと一歩遅かったら茅葺き職人になってました。

ということで今回は古民家と切っても切り離せない「茅葺き」についてお話していきますね。
みなさん茅葺き屋根って見たことあります?
『まんが日本昔ばなし』の冒頭に99.98%の確率で出てくるアレですよ。
知ってますよね。
でもあの屋根が、どう作られ、なぜ選ばれ続けたのか、というところまではご存じないと思います。
僕もそんなに存じ上げてるわけじゃないんですが、一般の方よりはちょっと知ってるんで、自分の体験を含めて書いてみようと思います。

茅葺き屋根の原材料は「葦(Yoshi/Ashi)」というイネ科の多年草。水辺に自生してるということですが、そんなん生えてるのなかなか見たことないですよね。
たぶんそういうところが茅葺き屋根衰退の一因になったのかなと思いますが、古民家って基本的にその辺にあるもんで作ってるんですよ。
石とか。木とか。土とか。
で、葦もその辺に生えてたんで、それを村のみんなで刈ってきて、みんなで編んで、屋根にしたのね。
他にも葦はすだれ=ヨシズとしても使われてます。
いきなり話ずれるけど、そんなふうに古民家ってめちゃくちゃSDGsなんですよね。
自然のものだから自然に還るんですよ。
それを潰して石油製品バリバリの新建材の新築建ててる建築業界がSDGsに取り組んでます~なんてちゃんちゃらおかしいんだよ!
こちとらヨシDGズなんだよ!!

さて僕の古民家ギャグが炸裂したところで話を元に戻しますと、茅葺き屋根は原材料の減少、村のみんながサラリーマンになって手伝ってくれなくなった、簡単に葺ける屋根材が出てきた、といういくつかの理由によって今ではかなり希少なものになってしまいました。
古民家だらけの僕の実家付近でも、たぶん一棟も残ってないと思います。
みんなが手伝わなくなったので、その技術は失われていきます。すると専門職の人だけが施工できる伝統工芸的なアレになり、その結果、工事の費用が非常に高額になっていったんじゃないかなと思います。
茅葺きって、瓦葺きよりも全然お金かかるんですよ。
そしてそれをできる業者さんも少ない。
でも今、その状況を変えていこうと、日本のあちこちで茅葺きを復興させる気運が高まっているのを感じます。
たとえばクロニカでもご紹介してます宮崎の与組の坂口さんは、茅葺きの古民家宿をオープンさせました(施工例参照)。また青森の大室建築の大室さんは、でっかいお寺の茅葺き屋根を手がけたりしています(施工例参照)。
実際、茅葺き屋根は毛細管現象によって雨漏りの心配は無いし、見た目バツグンだし、自然に還るし、いいところはたくさんあります。
やっぱりこういう文化は残していくべきだと僕も思うんですよね。

とはいえ、実は僕、茅葺き屋根に対してはそんなにガツガツ興味あるわけじゃありませんでした。
ちょっと離れた場所から「いいなー」って眺めるくらい。
中学生に例えるなら3組の前田さんを廊下からチラ見するくらいの感じでした。
しかし!
そんな僕に転機が訪れます!
ある日、僕はたくさんの書類を抱えた前田さんと廊下でぶつかって…
じゃなくて、近所で開催されたものづくりイベントに、茅葺職人さんたちがやってきたんですね。
そのイベントは僕の知り合いが開催したものなんで、気軽にちょっと覗いてみよかー的に足を運んだんですが、その職人さんたちが茅で編み編みDIY体験コーナーみたいなんやってて、ぜひどうぞ、なんて言われたもんだから、なんか流れで参加したんですよ。
もちろんあんまり気乗りはしませんでした。
だってDIYでしょ?
そんなん奴隷にさせればいいやん? というポリシーを持つ僕としては、自分の手を動かして、なんか藁みたいなん編むとか、全然趣味じゃないのです。
でも子供がやりたがってるから、どうぞお父さんも一緒に…
的な感じで、茅葺き職人のお姉さんに教えてもらいながら、編み編みしはじめました。
「は~い、こんな感じで、葦を葦で結んでいってくださいね~」

見よう見まねでやってみると、あれっ? これ簡単じゃね?
ということに気付きました。
束をつかんで、巻き付けて、結ぶ。
そしたら次の束をつかんで、巻き付けて、結ぶ。
なんかてっきり伝統職人の技術みたいなものを叩き込まれて全然うまくできずに泣きながら帰るんかなと思ってましたが…
できるッ!
俺にもできるぞッ!!

うちの息子でもできちゃう。
いやほんと、びっくりです。
それと同時に、なるほど! とも思いました。
だってさ、難しかったら村の人ができんもんね。
簡単だからみんなで家がつくれたんですよ。
土壁だって漆喰だって、慣れればそれなりにできるんです。
茅葺き屋根の難しいところは職人がやってたみたいですが、基本的には人海戦術で、簡単な技術で、古民家というのはつくられているのでした。
僕はそういうところもほんとに感心します。
その場にあるもので、その場の条件で最高のものをつくった、その完成形が古民家なんだと。
だから自分たちで直せるし、移築したり、古材を再利用できたんだと。
メーカーが工場で作ったものを買ってきてプラモデルのように組み合わせてメーカー保証つけて販売する家とほんとに正反対なんだと。

そしてもう一つ、実際に自分がやってみて気付いた点がありました。
これが実は最も重要ポイントなのかもしれません。
ぼく、編んでる間、無心でした。
無心になって、ここ数ヶ月で一番集中してたと思います。
それはなぜか。
たぶん、めちゃくちゃ気持ちよかったんだと思います。
指先から伝わる自然素材の手触り。それに触れ続けている間ずっと、脳内麻薬がドバドバ出てたんだと思います。
これは……永遠にやってしまう……
昔の人の気持ちめちゃくちゃ分かる…
おれ囲炉裏のそばで永遠にわらじ編めるわ…
これがイベントじゃなかったら、きっと日が落ちても手元が見えなくなるまでやってたはず。
それは理屈では説明できない体験でした。

そんなわけで、もし僕が20歳若かったら、たぶん茅葺き職人の道を目指していたかも、というお話でした。
古民家もそうですけど、やっぱり何事も手で触れて、体験してみないと分かりませんね。
反省です。
これを読んでる皆さんも、ぜひ茅や、土壁や、漆喰や、3組の前田さんや新卒の吉永くんや憧れの山崎支店長など、気になるものには実際に触れて体験してみてくださいね!
おわり!

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