古民家リノベーション体験談53 二人三脚の家づくり
今回は時系列の話は少しお休みして、古民家暮らしを実現するために必要な「家族の協力」についてお話します。
うちの家に来たお客さんはよくこう言います。
「よく奧さんに反対されなかったよね~」
「奥さんも古民家が好きなんですか?」
「ご夫婦で同じ趣味だなんて、ステキ!」
ふーん。
僕はあまり自覚していませんでしたが、どうも世間的には、古民家再生は家族間の協力が得られないと実現しないようです。
僕は親に反対され、友人に反対され、友人の紹介で会った設計事務所の人にも反対され、とにかく四面楚歌ではありました。
確かに、そこで嫁にまで反対されていたら、古民家暮らしは実現できていなかったかも知れません。
そういう意味で僕はラッキーだったと言えるでしょう。
が、
しかし。
僕と嫁は決して「同じ趣味のご夫婦でステキ!」ではないのです。
今日はそんな話をしてみようと思います。
同じ趣味ではない。
なのに嫁は、新築をやめて古民家に住みたいと告げた時も、再生工事の内容を決める時も、文句ひとつ言いませんでした。
普通の一軒家に生まれ育ち、普通のマンション暮らしをしていたのに、ある日突然古民家暮らしがはじまった時も平気な顔をしていました。
これは事実です。
この事実だけ見ると、うちの嫁は同じ趣味を持っているか、そうでなければ
「我慢強く夫を支えてくれるめちゃくちゃよくできた嫁」
のように思えます。そして僕の方は
「優しい奥さんが辛抱してくれているのをいいことにやりたい放題やってるアホな夫」
のように思われます。
実際、僕の周りの人間は100%そう思ってます。
ちがうんです。
ちょっと僕の話を聞いてください。
以前ブログにも書きましたが、大阪で住宅設備の展示場といえばグランフロント大阪。
グランフロント大阪には有名メーカーが集まる大型の展示場があり、そこに行けば各社の風呂やらトイレやらシステムキッチンやらタイルやらいろんなもののサンプルを見ることができます。
今回の再生工事で水回りは一新することになるので、僕はその日嫁を連れてグランフロントにシステムキッチンを見に行きました。
最終的にはシステムキッチンを諦めて中古の流しを使うことになったんですが、その時はまだ予算のことは頭になく、ひたすら目の前のキラキラした今風のキッチンに目をキラキラさせながらあちこち回っていました。
その中に、人気メーカーのブースがありました。ブースは実際のキッチンのように演出されていて、靴を脱いでブースにあがると、リアルに自分が生活しているように思えました。
ああ、やっぱり流しはこれくらい広い方がいいな…
スライド式の引き出しはめちゃくちゃ便利…
でもやっぱりデザインがイマイチだな…
などとチェックしていたのですが、ふと気付くと嫁の姿が見えません。
振り返ると、嫁はなぜかブースに入らず、入口付近でウロウロしています。
え、何してんの? と思って僕は手を振って嫁を呼びました。
嫁、こっちに気付いています。
でも入ってきません。
???
意味が分からないまま、僕は一人でチェックを終え、パンフレットを数冊抱えて嫁のところに戻り、聞きました。
「ちょっと。何してたん?」
さてここで問題です。
うちの嫁はなぜ中に入らなかったのでしょうか?
1. そのキッチンがあまり好みじゃなかったから
2. 別のブースでもっと気になるキッチンを見つけたから
3. あれこれ目移りして疲れてしまったから
僕は嫁にもう一度、なぜ見に来なかったのかを聞きました。すると嫁は、ブースの足元の段差を指さしました。
「今日、紐靴やねん」
……
…………は?
お分かり頂けたでしょうか。
正解は、
4. 靴を脱ぐのがめんどくさかったから
という斜め上の理由でした。
新居のキッチンですよ?
新居のキッチン選びに、わざわざ電車乗ってグランフロントまでやって来て、すぐ目の前に実物のキッチンがあるんですよ?
それが靴の紐て!!
そうです。
なぜ僕の古民家暮らしがあっさり実現したのかというと、うちの嫁が家のことにウルトラ興味がないからです。
もう一つエピソードがあります。
土間の足場板に色を塗った日のこと。
嫁がパートに出かけてる間に、僕は気合いを入れて、土間の床全面をいい感じのダークブラウンに塗装しました。
塗るかどうしようかずっと迷っていたんですが、いざ塗ってみると、それまで新材の白っぽさで浮いていた土間空間が、足元が暗くなることで一気に落ち着き、ぐっと引き締まった表情になりました。
玄関を開けた真正面の床なので、玄関からの見え方もチェックしました。明らかに空間が見違えて良くなりました。
これは塗って正解やん!!
きっと嫁も喜んでくれるはず。何も知らずに帰ってくる嫁は、やっとできたこの玄関空間の、いわば初めてのお客さんです。玄関を開けた瞬間、彼女がどう反応するのか、僕はワクワクしながら彼女の帰りを待ちました。
以下、原文ママの会話です。
(玄関を開ける音)
嫁「ただいまー」
僕「おかえりー(ニヤニヤ)」
(嫁、土間に立つ僕を見る)
僕「……」
嫁(カバンを置きながら)「今日さ~、課長がさ~」
僕「なんか言ってよ」
嫁「え? 」
僕「感想言ってよ」
嫁「何の?」
僕「いや、床の」
嫁「?」(土間の床を見る)
僕「……」
嫁「床の、なに?」
僕「お前……すごいな……」
そうです。
彼女は全面ダークブラウンに塗られた床に気付いていなかったのです。
というより塗られたことに気付かないんじゃなくて「そもそも元の色を知らない」という反応でした。
さらに、床に色を塗ったことを伝えたら「あ~、ええんちゃう?」と返事したものの、次に口を開いて出た言葉が「ちょっと聞いてよ、課長がさ~」だったのです。
そういうわけで皆さん分かってください。
彼女は「優しく忍耐強い嫁」なんかじゃないんです!!
こういうのは非常にレアケースだと思います。
新居のキッチンを旦那が選んで嫁が使いやすいようにレイアウトして旦那が器具を揃える家づくりが他にどれほどあるでしょうか。
うちの嫁は本気で家づくりのすべての事柄に興味がないので、キッチンに対する要望もゼロだったのです。
だから僕は何でも自由にできた、いや、それは分かる。
それについては感謝してる。
でもさぁ!!
家づくりって、大きな決断が何度も発生するんですよ。
悩みに悩んで、本当に迷った時に、僕は、嫁には相談できなかったんです。
一度決めると変更ができないキッチンの位置、トイレの位置、お風呂の位置。本当にこれでいいのか? 子供が大きくなった時のことは? 老後はどうなる? 今ここに巨額のお金をかける意味は? その選択肢は本当に正しいのか?
そんなことを嫁に言うと「それでええんちゃう~」とスマホ見ながら流されて終わりなのです。
はっ!
しまった気付けば長文の愚痴ブログになっている!!
つまり僕の言いたいことはこうです。
古民家再生には2つのパターンがあると。
・古民家が好きな奥さんと旦那さんが一緒に作っていくパターン
・どちらかがウルトラ興味がないパターン
僕は後者ですが、このようにいいところと悪いところがあります。
では前者のパターンなら良いかというと、それはそれで「譲れないこだわり」がぶつかり、家づくりでモメまくるケースも見聞きしています。
特に新築ではなく古民家再生となると、プラス要素のジャッジではなく、マイナス要素をどう解決するか、という判断も多いため、モメる内容のシリアスさが跳ね上がるんじゃないでしょうか。
これどっちがいいんですかね。
僕なんかは、雑誌で仲の良さそうな夫婦が二人三脚で家づくりをやってますみたいな記事を見かけると「いいな~」と溜息出ますが、もしかすると裏では再生プランについて血を血で洗う醜い戦いが繰り広げられてるかも知れないし、分かんないっすね。
そんなわけで、
奥さんまたは旦那さんが古民家に興味ない方!
孤独な戦いになると思います。がんばってください。
そして、お互い古民家好きでこだわりが多いって方!
着工前に、それぞれが持っているイメージと方向性について、一度きっちり二人ですり合わせをしといた方がいいかもですね。
おわり。