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古民家リノベーション体験談17 劣化と経年変化

【前回までのあらすじ】古民家の寿命は長いんやで

前回は家の寿命というテーマで書きましたが、その中で「現代の住宅は劣化する素材を使っている」という点に触れました。
今回はここの部分について、もう少し詳しく掘り下げてみようと思います。

「劣化」というのは「劣る」と書くので、悪いというニュアンスを持ちます。
劣化したらダメなんです。
劣化がどれほどダメなことなのか知りたい人は、「アクセルローズ 劣化」とか「エドワードファーロング 劣化」とかでググってみてください。
で、
実際、今の住宅によく使われるスレート屋根もサイディング壁もクッションフロアもビニールクロスもプリント合板も集成材もシステムキッチンもユニットバスも全部劣化するわけです。
なぜなら!
人工物だから!

いや人工物っていうのは語弊がありますね、まあようするにケミカルに作られたものってことです。
ケミカルに作られたものって、新品の時が一番きれいじゃないですか。
たとえばiPhone。
あれは新品で箱の中に入っている状態が一番ベストじゃないですか。
「じゃあデータの引き継ぎしますね~」とか言って携帯ショップの店員が箱を開けてiPhone取り出してなんか色々触られてるのを見ながら「ああっ、俺が触る前に…」とか思うじゃないですか。
つまりそういうことですよ。
iPhoneについた指紋は劣化になるんです。
iPhoneの画面に傷がついたら劣化なんです。
システムキッチンだって同じこと。
ツルツルの人工大理石に傷が入っていようものなら即クレームで返品、謝罪、のち交換ですよ。
でもさ、傷や汚れってどうしてもつくでしょ。
ケミカルはそれを許さんわけです。
今の主流であるケミカルな家は、引き渡しの時がMAX美しい状態です。でも5年10年経ってみると変色してきたり、汚れてきたり、傷だらけになったりして、みすぼらしい感じになってきます。
そうして20年、30年経った時に「この家ももう寿命やね…」となるわけです。

一方、ケミカルじゃないもので作られた家はどうでしょうか。
屋根や壁や床や家具やドアや窓や照明が、プラスチックでも樹脂でもアルミでもなく、木や、石や、土や、鉄や、真鍮なんかで作られていたとしたら。

板張りと真鍮ノブ

この写真は新築で建てた渡り廊下を撮ったものですが、ここには新しい木材と、50~60年くらい前の古い窓枠とドアが、ごちゃごちゃに混ざってます。
でもあら不思議。
そんなに違和感なく馴染んでませんか?
これがもし50年前のiPhoneと新品のiPhoneだったら、片方はボロボロに劣化したゴミ、もう片方は憧れの最新機種、みたいになるでしょう。
どうしてそうならないのか。
なぜなら!
自然物だから!

考えてみてください。山でも川でもどこでもいいですけど、自然に囲まれた風景に、違和感感じますか?
この木はまだ若木だけどあの木は古くてみすぼらしいから嫌だわーってなりますか?
この岩はもう300年経ってるからそろそろ替え時だよね~ってなりますか?
ならんでしょ。
なぜならそれら自然物は「劣化」しないからですよ。
自然はただ「変化」するだけです。
枝が折れてもそれは「変化」であり、石が削れて丸くなってもそれは「変化」です。

僕の言いたいことが伝わるでしょうか。
「新建材は劣化する」という話の主旨は、新建材が早く痛んでくる、ということだけではありません。
スレート屋根など、実際寿命が短くて痛んでくるものもありますが、例えば木製ドアとメラミン樹脂のドアを比べると、後者は腐らないので、物理的な寿命は長いと言えます。
ところが、自然物は変化し、人工物は劣化するという、この人間の感覚をふまえるなら、ゆくゆく嫌な感じになるのは樹脂のドアの方ですよ、ってことです。

「劣化」というのはストレスになります。
一方、「変化」は楽しめます。
さっきの廊下の外壁なんか、年数が経つごとにどんな経年変化を見せてくれるのか楽しみにしていますが、これがサイディングの壁だったら、年数が経つごとにどんな不具合が出てくるのか心配になっていることでしょう。
それくらい気持ちが違います。

何度か書いてますが、僕が「古民家は楽でいいよー」と言ってるのはそういうことです。
古民家を再生するにあたり、僕は「限界まで新建材を使わないこと」というルールを自分に課しました。
その結果、今僕は居間のソファに座ってこれを書いていますが、顔を上げて目に入るケミカル素材と言えば、プレステ2とプレステ3とワンピース海賊無双2くらいです。
あとは天井も柱も壁も床も窓もテーブルも椅子も照明も時計も全て、産業革命前からある素材で作られているものばかりです。
するとどうなるか。
家は「劣化」から自由になります。
すなわち、10年経っても傷や汚れが気にならず、20年経っても流行遅れにならず、30年経っても寿命を迎えない、「真・長寿命の住宅」となり得るのです。

ちなみに僕は家の設備やインテリアにアンティーク品をよく使います。
アンティークなものは当然ながらケミカル素材ではなく、木や鉄で作られており、家自体が巨大なアンティークである古民家とものすごく相性がいいのです。
そうして作られた古民家の空間は、何か居心地がよくて、優しくて、ユルい。
無垢の床に水をこぼそうが、漆喰に落書きされようが、別にそんなに気になりません。それは「絶対に起きてはいけないアクシデント」ではなく、「当然起きるはずの変化」なんですね。
新品状態にキープするためにピリピリ暮らす家ではなく、10年、50年、100年の時を経て刻まれた変化が、人をゆるーく包んでくれる家。
僕はこういう家に住みたかったのです。

思わずまた長文になってしまいました。
最後にオチ。

レザーオットマン

by子供。
「変化」ゆうても限度あるやろ。

おしまい。

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