古民家リノベーション体験談55 和室をつくる
【前回までのあらすじ】お風呂のドアが腐る頃にはiPhoneの機種変に50万円くらい使ってるよね
1000年以上の長きにわたり日本人に愛用され、そしてなぜかこの数十年で日本の住宅から失われたもの。
それは和室。
「古き良き日本の伝統を採り入れた、癒しの空間」とか言ってる部屋に限ってクロス壁に今風の四角い畳を並べただけの代物でそれやったらわざわざ「古き良き」とか言わんでええやん…なんで余計なこと言うてしまうん…と僕に思われがちなもの。
それは和室。
ということで今回は「和室」についてのお話です。
僕は古民家を再生するくらいなので、もちろん和室も好きなんですが、新築でガチの和室を造りました。
用途は「寝室」です。
僕自身はベッド派だったんですが、嫁が布団派で、かつちょうど赤ちゃんもいたのでまあそっちの方がいいだろうと、わりと軽い気持ちで和室にしたんですが、
そしたらこれが大正解!
もうほんとに毎日「和室にして良かったね」って家族で言い合ってるんです♪
いやマジで。
最近はちゃんとした和室を造る工事がほとんど無いらしくって、新築の一室をちゃんとした和室にするって言ったら親方や大工さん、建具屋さんはみんな喜んでました。
皆さん「ちゃんとした和室」ってどういうのか知ってますか?
「畳の部屋=和室」じゃないっすよ。
簡単に言うと、
・真壁造り
・左官壁
・畳
・襖or障子
・竿縁天井など
・肘掛窓(オプション)
・床の間(オプション)
・違い棚(オプション)
・付け書院(オプション)
などの組み合わせで造られたものが「和室」です。
僕はべつに格式原理主義者ではないので、これら全てが必要だなんて思ってないですが、少なくとも「和室」と言うからにはこの中で最低3つの項目くらいは満たしてほしいものです。
えーなにこの人細かすぎキモい〜タタミの部屋なら和室じゃ〜んバカじゃな〜いとお思いの方。
全然違ぇから。
ビジュアルで説明しましょか。
はい。まずはこちら。
床は今風の四角い畳を敷いていますが、これを見て「和室やん」と思った人、重傷です。
あなたは昨今の住宅業界の広告に洗脳されてます。
こういう部屋も最近ホテル予約サイトやAirbnbなどで「和室」としてカウントされてますが本物は全然違います。
本当の和室はこれ。
全然違ぇから。
まず柱が見えてっから。
アルミサッシとかねぇから。
まあそういうことは一目瞭然だと思いますが、さらにここには、ある一つの大きな、決定的な違いが隠されています。
何だか分かりますか?
え? 上が自分で描いた絵で、下がGoogle画像検索で見つけた和室写真のトレース画だって?
正解!!
じゃない、そっちじゃないです。もっと決定的な違いがあるの。
それは「目線」です。
再びビジュアルで説明しましょう。
さっきの部屋に等身大の人物シルエットを入れてみました。
シルエットのクセが強くてすみません。
いかがでしょうか。
だいたい顔の高さに窓の位置がきていますね。
これは現代の住宅の一般的な窓位置だと思います。
じゃ次。
今度は和室に等身大の人物を配置してみました。
シルエットのクセが強くてすみません。
左側を見て頂くと、雪見障子の窓と床の間の花が、ちょうどこのシルエットの顔の高さにきているのがお分かり頂けると思います。
そう。
和室は、床に座るのです。
洋室は、椅子に座るのです。
だから、窓の高さが、全然違うんだよ!!
ここでもう一度さっきの部屋に戻り、シルエットさんに座ってもらいましょう。
座り方がちょっと引っかかりますが、つまりこの部屋の一番おかしいところは「窓から外が見えない」という点なのです。
なぜそんなことになるかというと、洋室の床を畳に替えただけだから。
ようするにこの部屋は「和室」じゃなくて「床が畳になってる洋室」なのです。
たとえるなら馬にコブつけて「ラクダ」と言い張るようなものです。
お馬さんも困惑顔です。
ところがこういう「和室」、しょっちゅうあちこちで目にします。
そして目にするたび僕は「いや、外見えへんやん」「いや、外見えへんやん」と心の中で一つずつ丁寧にツッコんでいるのです。
まーこんなことは大工さんや設計士さんなら常識なんだろうと思うのですが、でも「洋室の床を畳に替えるだけ」の方が簡単なので、お任せで頼むと冒頭の画像のようになってしまう可能性もあると思いますよ。
実際、僕もわざわざ自分で言わなければ普通のサッシが普通の位置についてたと思います。
でも僕は事前の自主勉強でこのことに気付いていたので、「窓は肘掛窓で!!」と指定することができたのです。
肘掛窓とはその名の通り、畳に座って、肘をかけられる高さの窓。
この規格は現行のアルミサッシでもあるというので、それを指定して、ついでにアルミを隠すために内側に障子もつけました。
できたてホヤホヤの和室
ああ、なんという説得力。
なんという和室感。
アルミサッシでも窓の高さを合わせるだけでここまで和室っぽくなると思いませんでした。
この和室、今は家族の寝室として使っていますが、老後はここにちゃぶ台を置いて、庭を眺めながらお茶でもすする予定です。
さて、また長くなってしまった。
冒頭で「和室にして大正解」だったと書きましたが、そのお話は次回に持ち越しです。
つづきます。